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恐怖の実話

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その大きな合宿所は、二階建てなのに階段がないという。梯子を掛けて偵察したところ、二階は四つの部屋に別れていたらしいのだが、夜中に子供の駆ける足音は壁を無視して走り回っているという。
「イシワタという野球少年かも知れないって、三人のメンバーが昨夜の飲み会で云い出しましたよ」
「えっ!どういうことですか?」
「三人が同じ夢をみたんです」
「本当ですか?……イシワタ君か」
 私の全身を鳥肌が包んだ。
「トラックに轢かれた練習帰りのイシワタ少年の遺体が行方不明になっていると、その三人が主張していました」
「昨夜も僕がここに泊まったときに夢に現れた少年が、自分の名前はイシワタだと云っていました」
 云ったのはずんぐりとした男だった。
「お祓いをしてもらうとか、何か対策が必要ですね。それとも、練習の場所を変えるとかね」
 それが、そこを離れるときの私のことばだった。
 数週間後、私はカニさんから悪い報告を受けた。学生たちの数人が次々と怪我したため、演技の練習は中断しているというのだった。
 更にひと月ほど経ち、私の台本とカセットテープを持ってカニさんが現れた。学生劇団の立ち上げは未遂に終わったと、私は残念な報告を彼の口から聞いた。十三人の学生たちは一人残らず怪我をして入院しているということだった。
 カニさんは霊媒師をそこに呼び、調べてもらった。霊媒師は床下を掘ることを勧めた。
床板をはがしてその下を筋骨逞しいカニさんが数か所掘ってみると、野球少年の白骨死体が出た。野球のユニホームにも、帽子、バット、グラブにも「石渡」と名前が記されていたという。
 その後、カニさんまでが行方不明になった。残る関係者は、ただひとり。だが、随分昔の話であり、恐らくは時効となっている筈である。
 とはいえ、私が乗っていた車が最近追突され、現在も首と肩と背中と腰がひどく痛い。
 もうすぐ午後二時になる。さて、そろそろ整形外科へ行ってマッサージをしてもらおう。

                 了
作品名:恐怖の実話 作家名:マナーモード