扉を開けたメール
年末の引っ越し
大規模な金属製の櫓が、視野一杯に広がっていた。そこに無数の照明器具とハイビジョンの超特大画面、大迫力のスピーカーシステムが設置されている。画面には若手男性ヴォーカリストの顔が映し出されていた。
そのコンサートのアンコール曲の、ビートのきいたリズムが踊る三万人の大観衆を魅了している。ステージ中央の若手男性ヴォーカリストに当てられているスポットライトが、音楽に合わせて色を変える。極めて精悍な容貌の男が、自ら作詞作曲をした曲をギターを弾きながら力強く歌っている。
花山と共にアリーナにいるともみは一緒に歌いながら踊り、時折拳を突き上げたりもする。
花山はともみの真似をして身体を動かしているのだが、それがぎこちないような気がして早くコンサートが終了することを願っていた。
大音響と共に上空に花火が上がり、漸くコンサートがフィナーレを迎えた。
「好きだよ」
と、その瞬間に花山は云った。
ともみにはそれが聞こえなかったらしい。
「最高だったわ!夢を見ているようだった……」
ふたりは会場の出口へ向かって歩き始めた。ともみは花山の手を握っていた。彼女の笑顔は強烈な水銀灯の光の中で輝いていた。