扉を開けたメール
星に願いを
花山は午前三時前に住まいから出て、海に向かって三十分余り自転車を走らせた。海が見えるところまで来ると、堤防の上を行けるところまで自転車で移動し、そのあとは岬の岩場まで懐中電灯の光を頼りに歩いてきた。
そこは街灯がないので、驚くほど星空がよく見える。砕ける波の音の中で、冷たい風に吹かれ、彼はふるえながら空を観ている。ときどき、冷たい波の飛沫も飛んでくる。
どれ程待っただろうか。そのとき、夜明け前の漆黒の空に、一条の閃光が疾走した。
それは、今までに観たことのない、度肝を抜く凄い流星だった。
ともみという娘に、何とかして会いたいと、観る直前の花山は想っていた。そう想っているときに、その強烈な光が、北から南に流れたのだった。
何度も転びそうになりながら、漸く自転車のところまで彼が戻ったとき、メールが届いたことを報らせる電子音が鳴り始めて驚かされた。
「花山さん。おはようございます。たった今、窓の中をすごい光が上から下に通り過ぎました。『花山さん』って、わたしが心の中で叫んだ直後でした。最高のタイミングでした。
だから、すぐに逢えそうな気がしています」
「私も、海の近くの暗い岩場で、ともみさんが観たのと同じ光を心に刻み込みました。きっと、近い将来、ともみさんに逢えると、確信しました」
*
ちょうど夜明けの時刻に花山は帰宅した。急に疲労と眠気に襲われた彼は、すぐに深い眠りに堕ちて行った。
花山が目覚めたのは、午後二時過ぎだった。午後三時にラーメン屋で空腹感を解消したあと、彼は自転車で街を走りまわった。
鉄道に沿って走ってみると、消防署とカラオケスナックが同時に視野に入るところは
なかなか発見できなかった。簡単にみつけられると思っていたので、落胆は大きい。緊急自動車が出入りする線路際で、カラオケスナックもあるところ。病院か警察署なら緊急自動車が出入りする。そう思い直して探しまわったが、結局は徒労だった。
監禁現場の捜索は、午後八時に打ち切った。仕事中とは知りつつも、間島に電話した。
「はい。暇な間島です。囚われの美女との逢瀬は実現したのかい?」
「緊急の問い合わせ!緊急自動車が出入りするのは消防署、警察、病院以外だと、どこかな?」
「……ガス会社」
「そうか!それって、ガス漏れを直しに行く車だね。なるほど」
「ほかにご相談は?」