花、無、世界
こころ。
心
そうだ…。私は「心」という名で呼ばれていた。
私はその名が嫌いだった。だって心だなんて人の闇そのものじゃないか。そして、美しくて醜い形のないもの。私はそんな恐ろしいものと同じ名を持つことが怖かった。また、私なんかにはとても似合わないと思った。
私は自分の存在が「心」として溶けてしまうかのように感じていた…。
浮遊、融解、まぼろし、あたたかい涙。
わたしは「心」をあいしたかった。
…………。
………………。
遠くから音がする。鼓膜が震える。
「心」
私を呼ぶ声が聞こえる。
とても哀しい、愛おしい声。涙が出そうだ。
あれは私の声か、愛しい誰かの声か、それとも誰の声でもないかもしれない。けれど、声は唯一の道しるべ。
私は私になる。私は心。
無になどなれない。終わりなど見えない。そして、永遠もつかめない。
けれど私は、それでも、無に焦がれるだろう。
私の名は「心」。
その名とおりの深い闇と眩しい光を抱いたまま、歩く。
声のする方へ…。
心のままに。
花、無、世界。