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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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花、無、世界

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こころ。



そうだ…。私は「心」という名で呼ばれていた。

私はその名が嫌いだった。だって心だなんて人の闇そのものじゃないか。そして、美しくて醜い形のないもの。私はそんな恐ろしいものと同じ名を持つことが怖かった。また、私なんかにはとても似合わないと思った。

私は自分の存在が「心」として溶けてしまうかのように感じていた…。
浮遊、融解、まぼろし、あたたかい涙。



わたしは「心」をあいしたかった。










…………。
………………。


遠くから音がする。鼓膜が震える。



「心」

私を呼ぶ声が聞こえる。
とても哀しい、愛おしい声。涙が出そうだ。
あれは私の声か、愛しい誰かの声か、それとも誰の声でもないかもしれない。けれど、声は唯一の道しるべ。
私は私になる。私は心。


無になどなれない。終わりなど見えない。そして、永遠もつかめない。
けれど私は、それでも、無に焦がれるだろう。

私の名は「心」。
その名とおりの深い闇と眩しい光を抱いたまま、歩く。

声のする方へ…。

心のままに。



花、無、世界。
作品名:花、無、世界 作家名:冬野すいみ