花、無、世界
私はあなたの瞳が欲しいなと考える。
あなたの瞳はただ生きているだけだから。世界を映し、悲しみを映し、美しいものや醜いものを食べ尽くしてそれでも、ただ息をしている。私の瞳は息をすることを忘れそうだ。生きをする、生きている血なまぐさい瞳が欲しいのだ。
人の欲には果てがない。
私はあなたの瞳を欲しがって、けれどあの子の手を欲しがって、あの人の髪を欲しがって、そして誰かの命も欲しがるのでしょう。
ただの欲張りだ。ああ、馬鹿らしい。ああ、虚しい。
白魚のような手。みどりの黒髪。
そんな褒め言葉が漠然と頭に浮かぶ。それでは、瞳はなんて表現されるのだろう。私の少ない知識では分からない。けれど私は生きている瞳が欲しいなと感じる。
私のものになった瞬間、それは死んだ瞳となり、あなたの瞳ではなくなってしまうと分かっていたけれど。
ああ、やはり永遠に手に入らないのだ。なにもかも欲しいものはけっしてこの手に入らない。手のひらからするりと零れ落ちてしまうのでしょう。ああ、やはり、虚しい。
私は私自身すら自分のものとは思えない。ただ憎らしい、疎ましい存在として持て余している。
美しい、うつくしい、うつくしいすべて。
私は美しいものが欲しい。
そして、美しいものになりたいのかもしれない。美しいものになれたら、この足で踏みにじってすべてを醜く壊してやろうと思ったりする。醜く壊れたすべてはきっと何よりも美しいと思うから。それはただの願いかもしれない。
望み。
私は一人、屋上に立ち尽くす。
誰もいないさびれた高層団地の屋上。立ち入り禁止のはずのそこに私はいた。なぜここにいるのだろう。これはきっと幻。
私なんてはじめから幻だ。
風が強く吹きぬけている。
髪も服も乱暴に靡いている。
私は死にたかったのだ。私は生きたかったのだ。私は消えたかったのだ。私はすべてを葬り去りたかった。なんて、おおげさだ。
ただ、痛みに耐えかねた。ただ、虚しさに息ができなくなった。
空は薄水色。
吸い込まれそうに澄んでいた。
無、だった。
あなたの瞳はただ生きているだけだから。世界を映し、悲しみを映し、美しいものや醜いものを食べ尽くしてそれでも、ただ息をしている。私の瞳は息をすることを忘れそうだ。生きをする、生きている血なまぐさい瞳が欲しいのだ。
人の欲には果てがない。
私はあなたの瞳を欲しがって、けれどあの子の手を欲しがって、あの人の髪を欲しがって、そして誰かの命も欲しがるのでしょう。
ただの欲張りだ。ああ、馬鹿らしい。ああ、虚しい。
白魚のような手。みどりの黒髪。
そんな褒め言葉が漠然と頭に浮かぶ。それでは、瞳はなんて表現されるのだろう。私の少ない知識では分からない。けれど私は生きている瞳が欲しいなと感じる。
私のものになった瞬間、それは死んだ瞳となり、あなたの瞳ではなくなってしまうと分かっていたけれど。
ああ、やはり永遠に手に入らないのだ。なにもかも欲しいものはけっしてこの手に入らない。手のひらからするりと零れ落ちてしまうのでしょう。ああ、やはり、虚しい。
私は私自身すら自分のものとは思えない。ただ憎らしい、疎ましい存在として持て余している。
美しい、うつくしい、うつくしいすべて。
私は美しいものが欲しい。
そして、美しいものになりたいのかもしれない。美しいものになれたら、この足で踏みにじってすべてを醜く壊してやろうと思ったりする。醜く壊れたすべてはきっと何よりも美しいと思うから。それはただの願いかもしれない。
望み。
私は一人、屋上に立ち尽くす。
誰もいないさびれた高層団地の屋上。立ち入り禁止のはずのそこに私はいた。なぜここにいるのだろう。これはきっと幻。
私なんてはじめから幻だ。
風が強く吹きぬけている。
髪も服も乱暴に靡いている。
私は死にたかったのだ。私は生きたかったのだ。私は消えたかったのだ。私はすべてを葬り去りたかった。なんて、おおげさだ。
ただ、痛みに耐えかねた。ただ、虚しさに息ができなくなった。
空は薄水色。
吸い込まれそうに澄んでいた。
無、だった。