色の付かなかった夢
第4章 祈り
僕は石畳の坂道をほぼ上り詰めていた。
見晴らしの良いセメタリーの中ほどに辿り着いていた。
右に折れると、F-27はすぐそこのはずだ。
足元の墓石にはF-21とあり、先に進むと22、23と続いていた。
足元に気を取られていると、一人の女性とすれ違いざまに手提げ袋をぶつけてしまった。
「あっ、失礼しました」
「いえ、大丈夫です」
うつむき加減でそう答えた女性をチラッと見た僕はどこかで見た顔だなと思った。
透きとおった瞳、形の良い眉、真ん中から分けた長い髪。
ケント紙のあの女性だった。
「もしや、NANAさんでは?」
彼女はデッサンと同じ笑みを浮かべ、小さくお辞儀をすると背中を向け歩いていった。
F-27には真新しい花が供えられていた。
僕は手を合わせ心の中で呟いた。
「やっと会えたな。でもこんな形で会いたくなかったよ。
― ― ―しばらくこうしてここにいさせてくれ。お前の形見の絵の具と一緒に…」
僕は絵の具箱を抱えたまま天を仰いだ。
雲ひとつない青空だった。
(おわり)