一期一会
月の光
さえらのグループホームをあとにした二人は、フロントグラス越しに見え隠れする不完全な形の月を眺めていた。或る時は左側のマンションの屋上の上に、また或る時は、右側の丘陵の上に、
やや黄色味を帯びた月の姿が思い掛けなく現れた。
「最後にどうしても気になって仕方がなくて……」
「わたしの職業ね?……ありきたりな仕事だけど、実績は普通じゃないかも」
「……そんな気はしていました。ただものではないと」
「生まれた家は貧しかったの。でも、今はそうでもないわ」
「失礼なことばかり伺いますが、お住まいは賃貸ですか?」
「自己所有よ。ローンは完済したの」
「この車も?」
「ええ。借金はゼロ」
「そこまで云ったら……」
「……云ってしまおうか。今朝買ったお土産はお得意さまと、お得意さま候補の方々にお配りするの」
「何か販売しているんですね」