一期一会
「運転が好きでタクシーに乗ってます。でも、タクシーってね、加速が悪くて、ストレスがたまりますよ。ガソリンエンジンの車に乗りたかったんです」
「タクシーは違うんですか?」
「教習所の車と同じで、LPガスが燃料なんですよ。だから、発進がのろくてね。軽にも負けたりして、ストレスの連続でした」
「わたしの車は、速いかも知れませんよ」
「大パワー、太いトルク。いいですね。わくわくしますよ」
早川はにこにこしている。
「で、その車のところまでは、歩いて何分くらいですか?」
もう午後九時を過ぎているのだが、屋外の気温は下がっていないだろう。また汗をかくことを想うと早川は憂鬱だった。
「すぐそこの駐車場です。暑いから乗ってきてしまいました」
早川ははっとして聞いた。
「私を追跡してきましたね?そうでしょう」
女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。