一期一会
「そろそろ下の道におりたいのですが、如何でしょうか。単調な景色に飽きてきました」
「いいわよ。高速代も安くなるし。でも、疲れない?」
「タクシーで一日に二十時間近くも走りまわってますからね、全然大丈夫です」
「そうなの。じゃあ、頑張って」
「はい。頑張ります」
次の麻績インターまではまだ距離があった。後部座席のさえらはCDを聴きながら眠っている。
「ダウン症ってね、遺伝すると思う?」
「……判りませんね。どうなんですか?」
「突然変異みたいなものだから、遺伝はしないみたい。わたしの姉は三人子供を産んだけど、問題なかったの。生まれて暫くは心配してたみたいだけど」
「盲目の両親から生まれた子が、親の眼になって助けている、というような話を聞いたことがあります」
「それ、もうすぐテレビのドラマで放映するみたいね。母親が歌手なんでしょう」
「そうなんですか。テレビがない生活してるから、見たくても見られませんよ」
「初めてのデートで……」
しのぶの表情が翳っている。早川は不安だった。