一期一会
「何でも最高のものを目指して作るのと、ただ生活のために作っている、というのとではまるで結果が違ってきますね。車だって、しのぶさんの車はタクシーとは大違いですよ。
タクシーは止まる前と止まる瞬間に雑音とショックがあるんですよ。しのぶさんの車はそういう不快なものが一切ない。月とすっぽん、雲泥の差です」
「外車のタクシーもあるでしょ。会社を変えればいいと思う」
「……そういうところはノルマがきついでしょうね。寿命が縮む想いをするのではなく、実際に寿命が縮みますよ」
「さえらどうだった?おいしかったね」
「うん」
「ご馳走さまでした」
「行きましょうか」
「はい」
屋外は暑かった。三十五度に近いような猛暑である。急いで駐車場に向かった。振り向くとさえらは歩きにくそうだ。足が痛いのかも知れない。