一期一会
夜のドライブ
黒のボルボS40ターボつき排気量2512CC、230馬力。運転を頼まれた車のスピードメーターには、何と二百六十までの数字があった。ちょっとスロットルを踏み込めばすぐにスピード違反しそうな車だ。右ハンドル。電動革張りシート。サンルーフもある。ただ、ナビが旧式で使いにくいらしい。
早川が運転席に入った。女性が左側の助手席に座った。
「ウインカーは左手で操作します。最初は間違えてワイパーを動かしてしまいますよ」
「それはやりにくいですね。天つゆと蕎麦つゆのように混乱しそうです」
「間違えなかったら、ご褒美をさしあげます」
「愉しみです。とりあえず始動しましょう。暑いから」
早川は間違えないわけがない、と確信した。
「はい。お願いします」
静かだった。アイドリング中の振動も少ない。オートエアコンも同時にスタートした。
「加速がいいセダンという感じですね」
「そうですね。あっ、わたし、忍田しのぶです」