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中川 京人
中川 京人
novelistID. 32501
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差し向かい~晩夏・三日月・杯

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弟と飲むのは、あの事故以来半年ぶりだ。
遅い夏の空気が、民宿の縁台をゆったりと舐める。
杯が満ちる寸前に弟が口を開いた。
「月が出てるな」
「わかるのか」
「わかる。それも三日月だ」
「当りだ」
この方角かな、と言って弟は肩をひねった。
よくわかるな、と私は応じた。それがやっとだった。
「だから兄貴。もういいよ。俺は見えるも同然だ」
そうだな……。
私は弟の示した空をもう一度睨んだ。
あの空にも三日月が昇ることを祈って。