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ゴウヤクと愉快な -序-

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「お初にお目にかかります『束縛無き民の王』」
 緩やかな笑顔を湛えて、一目見ただけでは性別も年齢も曖昧に見える人物が第一声をあげた。
 小柄なのだが良く見れば性別は男であろう。
 年齢は子供なのか成人なのかそれとも中年までいってしまっているのかやはり曖昧だった。
 声が低い女声にも、高い男声にも聞こえるのも原因の一つか。
「簡単には話に聞いている。よろしくゴウヤク」
 握手だとかいう風習は身近ではなかったのでそういったことはしなかった。
 ただ確かにそれが初めて交わした会話で、長い長い時間の始まりだった。


   ***


 ある日、ふと声をかけられた。
「お前一人だろ?」
 それは『束縛無き民の王』、略して『無王』にとってとても親しい人物だった。
 黒い服に、漆黒の髪、瞳の色は燃えるような赤、肌の色は濃い目。
 太い声と筋骨隆々とはこういうことを言うのだろうという典型の様な体型をした男だった。
「俺のところに面白いの預けられて来たんだけど、ウチも人手有り余っているからいらないか?」
 無王の返答も聞かずに軽い調子で続ける。
 前もそういって人を無王の下によこしてくれた。
 その人物がちょっと問題人物で大変な目にもあった記憶が鮮明に思い出される。
「アンタでは手に負えないとかってオチじゃないのか?」
 多少警戒するもの許して欲しい。
 そんな無王の言葉に、相手の男はニッコリ笑った。
「そうかもしれない」
「……」
 そうなると、人手を貸してくれるとは言われてもちょっと悩む。
 たしかに永遠と一人旅であることを考えるとたまには共に歩む人も欲しい。
 ただ、自分でそれを作るわけにはいかなかった。
 かといって前科も有ると思うとむやみに借りることもできない。
「前とは全然違うからな。どちらかといえば、お前とは前回貸したヤツに迷惑をかけられたことがある繋がりだな」
 …といわれても、前回の彼女は誰にでも迷惑をかけているだろう。
「色々条件はつくんだが、どうする?」
 相手の男はニヤニヤと笑っている。
「条件次第では借りようか」
 その笑顔に、どのみち貸す方向で話を押し切られるであろうコトは安易に見えた。
 そこで聞いた人物は、以前耳にしたことがある人物だった。


 そしてその男に紹介されてここにいるのが熬籥(ゴウヤク)だった。
「『炎王』からは貴方に従うように言われています。しかし…」
 濃い肌の色、燃えるような真紅の瞳、黒い髪に、似たような黒い服。
 『炎王』のものと同じような出で立ち。
 違うのは華奢な体格と、前髪が一房真紅であることくらいだろうか。
「多分それも聞いてる。『上』の命令は俺にとっても絶対だし、その時になったら俺を遠慮なく使って良い…つか、俺のほうがアンタの指示に従わなくちゃいけないだろうし。それ以外のことも気にしなくて良い、自分の思うように行動して欲しい」
「ありがとうございます」
 『炎王』こと『炎の精霊王』は、また厄介な人物を無王に押し付けてきた。
 ただ、ゴウヤクの目的を考えると炎王の下にいても果たせないことは分かっているので無王の下で正解だろう。
「アンタのことはアンタの生前から噂を聞いてたよ。今回がその後の初めてなんだって?『炎の英雄の父』」
 その呼び名にゴウヤクは苦笑した。
「まぁ、生前から有名だったらしいですからね。とんだお耳汚しです」
「『炎の英雄』は、自分の父こそが英雄の呼び名を得るべきだと言っていたとか」
 無王がニヤリと笑った顔は、どこか炎王に似ていた。
「貴方もご存知でしょう。どう考えたってあの子が『炎の英雄』です」


   ***


 『束縛無き民の王』略して『無王』は、『王』と言えども統治する国を持ってるわけではない。 『精霊王』に近い存在だ。
 普段物質界(人間や精霊が通常生活している世界をそう呼ぶ)にいる時は極一般的な束縛無き民の姿かたちを取っていた。
 実際、肉体は何も無いところから発生したわけではなく人の子として生まれている。
 偶々その中身(魂)が無王だっただけで、時々に寄るが大体子供時代は普通に人間の親に育てられて成長成人し、家を出るという形でいなくなる。
 その土地には二度と戻らない、戻れない。
 そうやって地上での生活を繰り返していた。
 通常『王』という存在には肉体が存在しないか、肉体を作ることが出来ても極僅かの時間しか物質界に滞在できない等欠点がある。
 『束縛無き民の王』は他の王と違って統治もしないしそもそも存在自体知られていない。ただ監視だけ続け、時々干渉を行う存在だった。
 その干渉の仕方も『精霊王』達に比べれば至極かすかな力にしか過ぎない。 

 この世界(大陸)には6人の王がいる。
 始まりの四精霊を収める『地の精霊王』『風の精霊王』『炎(火)の精霊王』『水の精霊王』。
 四精霊が作った世界をまとめて体現する『森の精霊王』。
 そしてこの世界(大陸)にはそれらの精霊王に納められる形で存在する人間がいる。それらを『精霊の民(部族)』とまとめて呼ぶこともあるが、それと対する形で精霊と繋がりを持たずに生活をする者達もいる。
 この世界の理に縛られぬ者『束縛無き民』という。
 この束縛無き民を見守る存在として、他の精霊王たちと比べれば極最近に発生したのが『束縛無き民の王』だった。

 
 無王も昔は肉体を持たぬ状態で世界の監視を行っていたが、いつからか人間となって転生を繰り返して地上で生活するようになった。
 それもこれも、そう願う人間がどこかにいたからに他ならない。
 実は他の精霊王も同様で「他に望まれたから」こそこの世に存在している。
 そして時には自らを望んだ者を取り込んでしまうことがある。
 それが『従者』『仕官者』等と呼ばれる存在だ。
 基本的に無王は従者を持たないが、時々炎王が貸してくれる。
 

   ***


 船に乗っていた。
 巨大な乗り合い船で、湖を対岸へと進んでいるが多少沿岸に沿って行くので二日ほどかかる。
 その船に祖父母から孫までの一族が乗っており、祖母が孫達にこの世界の創世話を聞かせているのを無王は何とはなしに聞いていた。
 その横で、ニコニコとゴウヤクも話を聞いている。
 ゴウヤクの外見年齢は20歳前後なのだろうが(元々幼い顔立ちなのだという)、呪われし血族ゆえに一家の祖母よりもずっと年上だろう。
「地方によって多少脚色が違いますが、大体同じですね」
 懐かしそうに話を聞きながらゴウヤクが相変わらず笑っている。
 話の内容は大雑把に言って、五大精霊王が虚無の空間に何処からかやってきて精霊を使い、大地を作り、水を湛え、風を吹かせて、火で輝かせ、森で彩ったと言うもの。
「…お前も、あんな話を子供や孫にしたことあるのか?」
 ゴウヤクも無王同様転生者で、『ゴウヤク』に対しては初めての生の時のことを言っている。
 『ゴウヤク』には一人子供がおり、その者は『炎の英雄』として有名だった。
 更にその孫も一部では知られている。
「えぇ、子にも孫にも。孫といっても自分の子供みたいに育ててましたけどね」
作品名:ゴウヤクと愉快な -序- 作家名:吉 朋