なんでも治す薬 三、
「こら、かな! あんたそれ何本目やねん! 」
台所中に、お母ちゃんの怒鳴り声が響き渡ります。それを聞き流しているかなちゃんの前には、アイスの棒が、何本も転がっていました。
「まったくもう……そないにアイスばっかし食べよったら、おなか壊してまうで!? 」
お母ちゃんはそう言うと、二階に上がっていってしまいました。
「別にええよ。おっちゃんとこで買うた薬飲んだら治るもん」
かなちゃんは大声で言い返すと、テーブルの上に棒を置き、また新しいアイスを取り出すのでした。
「かな、何してんねん。頭濡れとるやないか、早う乾かせえ」
お風呂から上がり、テレビを見ているかなちゃんの髪の毛に目をやって、お父ちゃんが言いました。しかしかなちゃんは、テレビに夢中で気にしません。
「かぜひいても知らへんぞ」
そう言うと、お父ちゃんもお風呂の方へと行ってしまいました。
「ええねん。あれ飲んで治すさかい」
かなちゃんはまた大声で言い返すと、テレビに目を戻すのでした。
ここ最近、かなちゃんは、いつもこんなふうでした。
冷たいものばかり食べ、外から帰っても手洗い、うがいをしない。お風呂から出ても髪を乾かさず、外で遊ぶ時は、危ないことを繰り返しました。
お父ちゃんもお母ちゃんも、何度も注意しますが、かなちゃんには、まったく聞く気がありませんでした。
だって、あの薬さえ飲めば、かぜをひいてもおなかを壊しても、けがをしたって、何事もなかったかのように、けろっと治ってしまうのですから。
かなちゃんは、身体を壊しては、その薬を使ってすぐに治していたのです。
作品名:なんでも治す薬 三、 作家名:LUNA