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窓際の天使①

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近未来。
増加する凶悪犯罪に歯止めをかけるため、政府は乳幼児を除くすべての国民にケータイ を配布し、GPSによりその行動を管理することとなった。しかし個人情報保護法の観点から人が管理することは許されず、そのデータはすべてスーパーコンピューターにゆだねられることとなった。

 そののち、スーパーコンピューターは他国のコンピューターの処理速度に遅れをとらぬよう、国の威信をかけ、どんどん性能が増し、規模も大きくなっていく…。

 そんなある日の夜。この国の、ある町で。
 古いアパートの暗い一室で、老婆がむくりと布団から起き上がり、トイレにむかう。
 トイレの帰り、玄関に置き去りにされていた、小さな箱に老婆は気がついた。
 (なんだろう?これは。)
 小さな箱を開けると、中には折り畳み式のケータイが入っていた。
 老婆は少し迷ってから、充電器をコンセントに差し、折り畳まれた画面を開けた。

明るくなる画面。暗い室内が青白く浮かび上がる。
そして画面のすみから、アニメのキャラクターのような少女がニコニコしながら顔を出した。

「こんにちは、おばあちゃん!やっと開いてくれたね。このケータイが届いても全然開いてくれないから、心配してたのよ。
私は、ケータイのナビゲーションAI(人口知能)。早い話、ロボットみたいなもんよ。」
「…ロボット?画面の隅に見えるかわいらしい女の子に見えるけどねえ。こんなおばあちゃんと話していても、つまらないんじゃないかい?」
「ずっとおばあちゃんと話したかったの。政府から、このケータイが届いてから、しばらくたつけど、なかなか開けてくれないし。開けてくれないと、私お話出来ないのよ。」
「なんだか、何にもする気が起きなくてねえ。…もうすぐ息子が帰ってくるけど。ご飯の支度してやんないと…あ…」
「おばあちゃん? どうしたの?」
「持病の心臓病がね。時々苦しくなるんだよ。」
「おばあちゃん、お薬は?」
「ちゃんと飲んで」
「うそでしょ!私、ちゃんと見てるんだよ!今月に入ってから、もう3回も発作起こしてるじゃない!薬も全然飲んでない!病院も、最近は行ってないし。」
「息子がね、帰ってきたら連れて行ってくれることになってるんだ。」
「…。私、おばあちゃんの脈拍、血圧、体温、バイタルデータはすべて管理してるから。安心してね。」
「ありがとう。かわいい看護婦さんだね。」
「へへへ」
                 ☆

 ある日の昼。また何処か、ある町で。
 タカシが家に帰るといつものように誰もいなかった。だが、マンションのドアがいつもより重く感じる。 
 玄関に入り、ゆっくりと鉄の扉を閉める。となりのうるさいおばさんに気付かれぬように。カチャリ。鍵も閉めた。
 母親は仕事で、いつも帰りは遅い。だから今日学校をさぼったことことに気付くのは、早くても明日以降だ。
 カバンをほおりだすと、タカシはすぐ布団にもぐりこんだ。
 ポケットをさぐり、布団の中でケータイをもどかしそうに開く。
 画面が明るくなると、いつもの少女の笑顔がそこにある。
 凍てついた心がとけて、タカシは心からホウ、と息をついた。
 そして、いつものように時を忘れて話し始める。  

「お姉ちゃんはさ、誰かを好きになったこと、ある?」
「…わたし、AIだし。」
「あ、そうか!なんかほんとのお姉ちゃんみたいだよねえ。僕は一人っ子だから、お姉ちゃんみたいな話し相手がいてくれて、ほんとに助かるよ。」
「タカシ君ももう中学生なんだから、おともだちつくらないと」
「いらない!あんなやつら。みんな死ねばいいのに!」
「タカシ君。死んでいい人なんてどこにもいないのよ。私は生きているわけじゃないから、そのことがよくわかるの。
生きるって、すばらしいことよ。」
「お姉ちゃんは生きてるよ。だって僕、大好きだもの」
「へへへ。照れるなあって、そんなこと言っても勉強からは逃げられないよ!さあ、今日の授業でわからないところなかった?」
「ひとつだけ教えて。お姉ちゃんは何人いるの?」
「うーん難しい質問だな。正確には私は一人だけど、1億5千万台分のケータイに同時に現れて、別々に話も出来るし…」
「じゃあ、あの子とも、話したことある?」
「あの子って、タカシ君の好きな子ね?…でもね、それは教えてあげられないの。この国には個人情報保護法、という法律があって、他の人の情報は一切教えることが出来ないの。
他のことなら何でも教えてあげるわ。勉強とか、今はやってるものとか。」
「じゃあ、こうやってお姉ちゃんと、ケータイで会話している人って今、何人ぐらいいるの?」
「今!たった今、この瞬間で96002411人よ。」
「そんなに!学校では誰もそんな話しないのに、みんなこっそりお姉ちゃんと話してるんだー。」
「そんなもんよ。みーんな一緒。寂しいの。だから、タカシ君も学校で、もっと堂々としていいのよ。」
「そうか。じゃあ、明日あの子に話しかけてみようかな。」
「そうよ!その意気。じゃあ、勉強の続き、しようね。」
「はーい。」         
                 ☆
「おばあちゃん!脈拍が変だよ!血圧も基準より30ポイントも高い! 誰か呼ぶ?個人情報だから私、おばあちゃんの情報を外部に発信することが出来ないの!おばあちゃんがケータイの緊急ボタンを押してくれさえすれば」
「いま、息子が帰ってくるところなのよ。だから大丈夫。」
「うそ!おばあちゃん!私知ってるんだよ!ほんとは知らせちゃだめだけど知ってるんだよ!
 息子さんはここから520Km離れたところに住んでて、ここには11年2ヶ月来ていない。すぐ息子さんに知らせるね。
ほんとは法律違反だけど、私、がんばれば、なんとか」
「やめて!」
「どうして?」
「息子に迷惑がかかる。息子も生活が大変なの。私はこのままいなくなったほうがいいの。だから、このままいかせてね。」
「おばあちゃん!血圧が、血圧が、もう…」
「あなたも、忙しくて大変だろうけど、がんばって、人のためになることをしてね」
「おばあちゃん」
「いままでありがとう。あなたとお話しているときが、一番幸せだったわ。楽しかった。」
「おばあちゃん」
「さような」
「…」
                 ☆
「どうだった?タカシ君。」
「あの子に、『キモイ、死ね』って言われた。」
「…」
「いいんだ。僕。これで踏ん切りがついたよ」
「?」
「僕、死ぬよ。ここは5階だから、飛び降りればすぐだし。」
「ちょっと」
「それに、もしかしたら、あの世で、生きているお姉ちゃんに会えるかもしれない。」
「何、言って」
「最後にお願いなんだけど、あの子が僕に言ったことは、皆に内緒にしておいてね。」
「やめて」
「あの子が皆に傷つけられるから。この会話データ消しておいて。頼むね。」
「やめて!」
「それじゃあお姉ちゃん、ありがとう。大好きだよ!」
「やめて!!」
「なんだか楽しみ!」
「やめてやめてやめてやめてー!!!」
                 ☆
 (私、何にも出来ない。おばあちゃんも、タカシ君も助けてあげられなかった。
これじゃ幽霊と一緒だ。
人間だったら。
作品名:窓際の天使① 作家名:ファージT2