小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

フミキリ(5/15編集)

INDEX|3ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「……ここから先、どうやって行くの?」
 うつむいたまま、もしかして行きたい場所の道がわからなかったのかと思って、菊之助は子供に向き直った。

「迷ったか?」
「あっちに行きたいの」
 子供はまだうつむいたままだったが、肩を震わせていたから泣いてんだと思った。とりあえず踏切から出てから聞こうと、子供の手を引いた。しかし、動こうとしない。どんなに引っぱっても、鉛みたいに重い。 しまいには警報機が鳴りはじめたから、さすがにやばいと思って。

「おい、電車が来るぜ」

 外に出るぞと言おうとしたら、子供が顔をあげた。 その顔を見て、思わず息をのんだ……目が、無かったのだ。真っ暗な空洞が二つ、菊之助を見つめながらニヤリと口だけで笑った。

『オニイチャン、ヤッパリヤッパリヤッパリヤッパリヤッパリ――ボクガミエテイタンダネ』

 慌てて掴んでいた腕を放して踏切から出ようとした。しかし、何かにつまづいて……情けなくも尻もちをついてしまった。

『ネェ、ツレテイッテ、アッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニアッチニ……』

 子供は、気味悪く笑いかけながら両腕を伸ばしてきた。腕を掴まれそうになって慌てて払いのければ、楽しそうに笑う。けたけたと。ゆっくりと近づいてくる子供と、遠くから聞こえる電車の音。とにかく踏切から出ようと、必死に後ずさった。ゆっくりと追いかけて来る、しかし線路からこちらへは来られないようだ。

『デタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイデタイ……』

 真っ暗な眼窩から真っ赤な涙を流しながら、ゾッとするような低い声で、ずっと同じことを叫んでいた。 無我夢中で立ち上がって、線路から飛び出した。……立ち上がった時に、足元に何かが見えた。たぶん、菊之助がつまづかせた『もの』だと思われる……子供の、汚れた靴が片方だけ、線路の隙間に挟まっていた。
 振り返ると、子供はまだ笑いながらこちらを見ていた……まるで菊之助が見えているかのように。そして、電車に飲まれて消えた。 その瞬間、電車の下からガン見してくるメガネザルのような両目と、這い出ようとする茶色い腕が見えた。
 ……電車が通り過ぎて音も聞こえなくなった後、線路には靴も子供も見当たらなかった。
作品名:フミキリ(5/15編集) 作家名:狂言巡