フミキリ(5/15編集)
ある週末、作ろうと思ってたお好み焼きのソースを買いに出かけた。商店街に行くには踏み切りを渡らなくちゃならない。 待ち時間が長いというわけでもない、別になんてことはないどこにでもある踏み切りだ。時間は夕暮れ近くだったから、踏切を待っているのは菊之助と、仕事帰りや学校帰りの何人かだけだった。
電車が通り過ぎて踏切を渡っていると、向こう側から……紫色のランドセルを背負った子供がやって来て、踏切のど真ん中で立ち止まった。菊之助はその子供が目についたものの、そのまま横を通り過ぎる。渡り切ってからしばらくして踏切が鳴りだした。 何となく気になって振り返ったら、子供は居なくなっていた。踏切を渡って帰ったんだろうなと思った。
それからスーパーで買い物を済ませて、また元来た道を戻る。 ……踏切のど真ん中、何かが落ちていた気がしたが、暗くてよくわからなかった。 また一週間くらい経った頃だ。セロテープが切れたから、スーパーの隣の文房具屋に出かけた。前にスーパーに行った時と同じくらいの時間帯だったが、その時は菊之助以外には誰も踏切を待つ人間は居なかった。それで、何となく向かい側を見てたら……いつの間にか、あの子供が居た。本当に、いつの間にか。 徹夜明けで頭がぼんやりとしていたから気付かなかったんだろうと思った。遮断機が降りた踏切を渡った。 うつむいたまま踏切へと入って来た子供は、やっぱりど真ん中で立ち止まった。そして、菊之助はまた彼の横を通り過ぎる。
子供は、動く気配が微塵もなかった。 やっぱり帰りには誰も居なかった。 踏切を渡っていると……何かを踏んだ気がした。暗くてよく見えなかったが、ものすごく嫌な感じがした。
それからまた三日後くらいだったか。知り合いの家に行く途中だった。またあの踏切を渡ったのだが……やはり、子供は居た。そしてまた踏切のど真ん中で止まった。……さすがに気味が悪い。なるべく見ないように速足で踏切を渡った。すれ違いざま、何か言ってきたような気がしたが、関わりたくなくて無視した。 帰りにも、子供は居た。まだ、踏切のど真ん中に。また、その子供の隣をさっさと通り過ぎようとした時……今度は声をかけられた。
作品名:フミキリ(5/15編集) 作家名:狂言巡