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おとぼけタクシー

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あっ俳優のOO!



 無線配車というのがあり、十分か、十五分以内にナビに表示された場所へ予約の客を迎えに行く。
カーナビゲーションの画面は、間違った場所を表示することもあるので、気をつけないといけない。狭い道をどんどん行くと行き止まりだった、などということもある。
 或るとき、麻布十番へ呼ばれた。狭い道が大東京には数多くあり、苦労は絶えない。そのイタリアン・レストランもそういう道に面しているようだった。それで、小生はビビった。行き止まりだったらヤバいな、と思い、その道には入らずに、近くの少し広いところで待機することにした。その時点で無線のセンターに連絡するべきだったが、携帯が着信してしまった。友人のドライバーからだった。私は取り込み中だと云ったが、友人はなかなか電話を切らなかった。
 友人との通話を終了して間もなく、何かを探しているらしい総勢十人ほどの団体がやって来た。その中に有名な俳優の顔が見えた。レストランの従業員らしい困惑顔の中年男から、声をかけられた。
「タクシーを呼んだのに来ないんですよ。この車に乗せてもらえませんか?」
「すみません。呼ばれたのは私です。どうぞ、お乗りになってください」
「OOさん!この車です。乗ってください」
 全員に睨まれた。
 高齢者の俳優とその友人らしい女性を乗せて出発した。目的地が二転三転して、都内を数か所移動した。既に亡くなった昔の俳優仲間が住んでいた場所を、女性の案内で見て回ったのだ。下りるとき、俳優はタクシーのメンバーズカードを出した。
「御苦労さん。これ、取っといて」
 五百円硬貨をチップとして手渡された。かつて熱血派と呼ばれた俳優は、随分優しい感じの、にこやかなおじいちゃんになっていた。
 

作品名:おとぼけタクシー 作家名:マナーモード