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『喧嘩百景』第6話成瀬薫VS緒方竜

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 「あの子たちの方がきついとは思うけど、あの人も自分のことで周りの人間が傷付くのが怖いのよ。守りきれなくて辛い思いをするくらいなら誰とも関わらない方がいい。あの子たちもよ。日栄くんのことはどうしても放っておけなかったみたいだけどね」
 日栄一賀――あいつでさえ守られる側やゆうんか。
 何故それほど、強くなければならないのか。誰だってそんなに強くはあり得ないだろう――。なのに何故、周りの人間の弱さにまで責任を持たなければならないのか。
 「――この辺りが不穏なのは今に始まったことじゃないのよ」
 不穏。
 「あの人は自分の見ていないところで誰かが傷付けられるくらいなら、自分は強くなくていいと思ったの。強くなければ周りの人間まで傷付けられることはないってね」
 「――何が、あったんや」
 そうまでしなければならない何が。
 「昔の話はやめておくけど、龍騎兵にしても、あの人に言うことを聞かせるのにあの人自身には一切手を出さなかったのよ。――それがどれほどのストレスだったか、解るでしょ」
 それで、何もかもやめてしまったというのか。逆らうことも、戦うことも――。それで、錆だらけの鈍(なまくら)になって忘れられるのを待っているというのか。
 竜は胸の辺りがいらいらして身を震わせた。
 そんなのは嫌だ。それでは、卑怯な連中の卑怯な手に屈したことになる。そんな負け方は我慢できない。
 「――だからあたしは強くなったの。あの人に守って貰わなくてもいい程度にね」
 「俺かて、そないな思いはさせへん。弱いやなんて思わせへん」
 竜は拳を握り締めた。
 「なら、早く強くなることね。あの人がほんとの鈍(なまくら)になる前に」
彩子は強い口調で言った。
 「すぐや。すぐあいつより強うなって見せたる。痛いとか苦しいとか言わせへん。羅牙にも美希はんにも俺の前には立たせへん。誰がどないに卑怯な手を使(つこ)たかて、俺は逃げへんし、諦めへん。流れ弾がどっち向いて飛んでこうが俺が全部盾んなったる、全部や。何があったってどないな目えにおうたって、俺は絶対諦めたりせえへん」
 身体の傷などもとより気にならない。卑怯な奴らがどんなに汚い手を使っても、守ることを諦めたりするものか。
 彩子はにこりと笑った。