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ハロワのイロハ

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「しっかし、理想とはほど遠いわ……」

職を探すのも一苦労ってか。
俺は独り者だから危機感ないの?
いやそんなことない。
俺だってそれなりに危機感あるわ。

昨晩、凛ちゃんに電話した。

別れてから初めての会話。
たぶん酔った勢いで。

そしたらこう言っていた。

「ああ……でもダイジョブだよ。仕事すぐ見つかるでしょ……」だって。

取り繕った言葉。
心ここにあらず。
たぶん、もう男いる。
何で電話したかって?

未練。
これに尽きる。
そりゃそうでしょ。
だって俺、フラれたんだから。

やるせない気持ちは腐るほどあった。
惨めと後悔の二重奏。

「くそ」

赤インクと黒インクが切れた3色ボールペンを指で回しながら独りごちる。

なんの変哲もない、そこら辺で売っているボールペン。
これ、凛ちゃんが唯一、俺の部屋に置いていった忘れ物。
ていうか、不要だから置いていったのか。

失恋の未練というのは情けないもので、こんな物でも捨てられなかった。

部屋にあった凛ちゃんの生活用品は、いつのまにか無くなっていた。

* * *

等間隔に配列されたパソコンの前に座り、画面を食い入るように見ていた。

何でもいい。
何でもいい。仕事が欲しい。
俺、マジがんばるから。


「ね、あんちゃん、ペン貸してくんない?」

む。さっきのオッサンだ。

「……」

「……ダメ?」

「……」

「……それ、貸してくんない?」

「……。これ……もう使わないんで」

青インクだけが残る3色ボールペン。
さようなら。

「あらほんと!? ありがと~。そんじゃね」


ちょっと一服しようかと喫煙スペースへ向かった。
そしてちょっと考える。

「……」

タバコが妙に旨かった。

うん。なんかこんな気分になったの、久々かも。



作品名:ハロワのイロハ 作家名:OBTKN