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三剣の邂逅

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「あんた民を馬鹿にするのもいい加減にしろよ。名君だなんて言われても、意外と世界を知らないんだな。俺は何者でもないただの旅の自由戦士さ。俺のようにいろんな国を回れば、いろんなことがわかるぜ。その国の民が、どういったことに不満を感じているかもな。能力があるのに埋もれていく悩みを持つのは、何も高貴な方々だけじゃないってことさ」
「くっ」
 国王は、怒りを含んだ目でクローブを見ている。しかし、クローブはその視線を逸らそうとはしない。両者は激しく睨みあった。
 最初に視線を逸らしたのは国王だった。
「はっ、私としたことが、たかが罪人ごときに、何をムキになっているんだ」
 そう言って笑みを浮かべる国王には、冷めたオーラが戻っている。
「馬鹿な奴だ。これからのセレモニーの先陣に、自ら名乗りを上げるとは」
「別に馬鹿でもいいさ。俺は幽霊だのなんだのの非常識なことも嫌いだが、お前らのような、根性腐った奴らはもっと嫌いなんでね」
 臆することなく言い切るクローブ。その場の雰囲気は、まさに一触即発だった。
 そんな中、ずっと押し黙っていたクリスが、ポツリと呟いた。
「ごちゃごちゃ煩せえ……」
 そして次の瞬間、ブーツの中に忍ばせておいた短刀を素早く取り出すと、国王めがけて投げつけたのだ。
 抜き身の短刀は、実に正確に国王の胸元をめがけ、細い鉄格子の隙間を擦り抜けた。
「王っ!」
 短い声と共に、ぎりぎりのところでカーターが国王の体を強く引いた。
 短剣はわずかに王の左頬をかすめ、強い音と共に奥の石壁にぶつかって落ちた。
「くそっ!」
 クリスが盛大に舌打ちをした。そのままの勢いで激しく王とカーターを睨みつける。
「あんたらがなんと言おうと俺には関係ない。父さんたちを殺したことに変わりはないんだからな。あんたらは、その命で償うしか道はないんだよ!」
 命を狙われた国王が、それでも別段怒った風も見せずに片手で頬を拭った。
「別に、過去の選択が正しいとは思ってないさ。ただ、私たちは身をもって学んだんだ。善と悪は常に表裏一体。今ここで、我が命を狙う輩を消したとしても、そうして助かったその身で明日の民を導く。お前たちも聞いたんだろ? 私やカーターの評判を。私たちは、兄上やお前の父親たちを殺したからといって、別に悪政をしいてるわけじゃない。むしろ民にとってはなくてはならない存在だ。違うか?」
 国王は物騒な笑みを浮かべた。
「たった数人の犠牲者のおかげで、国民は安定した生活が送れる。別段悪い話ではない」
 ライアは、じわじわと沸きあがる嫌悪感に耐えるように、拳を握り締めた。
 確かに、今目の前にいるこの王と大使に、国民は満足しているようだった。
 もし今この二人が消えるようなことがあったら、この国はとんでもない痛手を受けることになるのかもしれない。
 しかし、十年前彼らが引き起こした事件で、犠牲になった者は確かにいたのだ。民の目には晒されていなくても、見えないところでは確実に。
 そんな、犠牲者なくして立ち行かない国家が、正しいものであるはずがない。
 その被害者たちが、「万人の幸福のための一部の犠牲」などであっていいはずがない。
 やっぱり何かが間違っている。
「真の良政に、犠牲者はつきものじゃないだろう?」
 ライアの気持ちを受けたようなクローブの嫌味が、牢内に響いた。
「これが私のやり方だ。諦めてもらおう」
 そう言うと、国王はくるりと背を向けた。
「さあ、おしゃべりの時間は終わりのようですね」
 カーターが笑顔で会話に終止符を打った。
 それは、別室で心待ちにしているクインによる、盛大な処刑の儀の始まりでもある。
 三人は、固い表情で、去りゆこうとする国王の後姿を見つめた。
 その時。
 目の前の国王の体が、ぐらりと揺れた。大きく傾いた体をなんとか踏みとどまらせようと二三歩よろめき、その反動でくるりとこちらを向くと、がくりとその場に膝をつく。
「な、なんだ、これは……」
 振り向いた国王の顔はひどく青ざめていた。全身が小刻みに震え、息遣いも荒い。
「王! 一体どうしました?」
 驚いたカーターが国王に駆け寄ろうとしたその時、入口から黒い影が飛び込んできた。

作品名:三剣の邂逅 作家名:夢桜