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なんでも治す薬 一、

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「なんやねんあのおっちゃん。あないなうさん臭いもん、買うわけないやろ」
 台所のいすに袋を下ろすなり、おかあちゃんがいまいましげに言いました。
「けどお母ちゃん、あれ、どないな病気でも治る、かなの病気なんか、一発で治るて、おっちゃん言うてたやん。
 そしたらかなも元気になるし、お母ちゃんも看病せぇへんですむし、ええことばっかりやん! 」
 かなちゃんが詰め寄ると、お母ちゃんは突き放すように言いました。
「かな、だまされたらあかんで。あの薬はにせもんや」
「にせもん? 」
「せや。あのおっちゃん、人良さそうに見えるけど、ほんまはとんでもない人やで。
 どないな病気でも治る薬なんか、あるわけがない。下手したら毒でも入っとるようなもんを、高いお金で買わそうとしとるんや。
 言うてみたら、どろぼうさんや」
「そうなんかなぁ……」
 かなちゃんには、なんだか信じられませんでした。だって、どこからどう見ても、ごく普通の、優しいおじさんだったのですから。
「そうや。だいたい、病気の時には寝るんが一番なんや。早う手ぇ洗てうがいして、上行って寝より」
「うん……」
 お母ちゃんに追い立てられるように、かなちゃんは手洗い場へと向かいました。
作品名:なんでも治す薬 一、 作家名:LUNA