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狂言誘拐

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 中野は車から下りたときからずっと背負ったままだった荷物をおろして開いた。中身は二十四時間スーパーで夜中に買いこんだ食料などだった。どこかで困ったときに役立つと思い、亜矢子の顰蹙を買いながらもスーパーのかごにほおり込んだものだった。彼が出したチーズやクラッカー、チョコレート、煎餅、羊羹、どら焼き、菓子パンなどの食料を、屋上に避難した人たちに亜矢子が配って回った。それを受け取って涙を見せるひとが多かった。
 そして間もなくその眩い光が、大音響と、強風と共に急接近した。ヘリコプターだった。所要時間は十分前後だった。亜矢子だけが、レスキュー隊員によって屋上から連れ去られた。中野を含む避難者たちは、まさに開いた口が塞がらないといったところだった。

作品名:狂言誘拐 作家名:マナーモード