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狂言誘拐

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「電話番号は、私が登録しているパソコンサイトのメンバーで、名古屋のマイフレンドの女性の携帯番号にしました。小野寺君を泊めてくれた家のひとです」
「中野さんはそういうことを、今頃云うんですね」
 小野寺は複雑な気持ちをその表情に覗わせた。
「あっ!それに関する日記を読んだわ。書いた人の優しさが、会わなくても凄くわかったわ。そう、あのひと、お父さんのマイフレさんだったの!……はい。もう優奈ちゃんの手術以外は結着がついたわ。これからみんなで一緒に空港まで行って、栗原さん夫妻を見送ろうね」
 美里は爽やかな笑顔で云った。
「困ったな。俺は陰で強面とか、悪役とか、云われてるみたいだけどな、これで意外と涙もろいんだよ」
 その後一時間近く経ってから、栗原家の私道を三台の車が、桜の花びらを舞い上げながら通過して行った。娘が運転する三台目の車の中で、中野は優奈という名の少女の、肖像画を描いている自らを想像していた。そして、愛らしい少女の絵の背景は、海ではなく、桜並木にするだろうと彼は思った。


                了



                                2011年 7月22日
          

 
 
 
 
 
 
 
 
作品名:狂言誘拐 作家名:マナーモード