「レイコの青春」 10~12
「ご苦労さま。
最近のレイコさんは、
現実的な夢ばかりを、見ているような雰囲気になってきたようです。
若い人たちは、できるかぎり大きな夢を見る必要があります。
大きな夢は、人を逞しく育ててくれるものなのですから・・・・
おや?やはり元気がありませんねぇ。
何か、悩み事でも増えてしまいましたか、恋する乙女は?」
柔らかな口調とは裏腹に、園長先生の言葉は、
今日もレイコの核心を、鋭く、かつ的確に突いてきます。
悪戯をした子供が、其れを見つけられてしまった時のような仕草をした
レイコが、やがてすんなりと、胸につかえた想いを吐露してしまいます。
「はい。
あれほど、ときめきながら社会へ出て、就職をしたというのに、
いつの間にか私の日常は、刺激のまったく無い、
同じ毎日の繰り返しになってしまいました。
社会人になったら、もっと何かあるのかと思っていたのですが、
昨日も今日も、まったく同じ暮らしのままです。
わたしが、高校生の頃に夢に見たり、期待していたものって、
一体なんだったのでしょうか?」
「ときめきが、足りないのは良くありません。、
私はいつも、青春のエネルギーとは、
ときめきから生まれるものと信じています。
青春と言う人生の入り口では、人を愛し、
人を好きになることが、まず大切です。
その体験がやがて女性が子を産み、
家庭を育むための源泉になるようです。
ゆえに、若い人たちは、もっともっと自分を磨いて、
さらに大胆に生きなければいけません。
昔のレイコさんは、いつもそうして、大きな夢を見ていたはずです。
原因は、一人旅を続くていると言う、例の放浪中の彼ですか。」
「はい?・・・」
「聞きました、幸子から。
彼を、自由奔放な放浪な一人旅に出してしまったそうですね・・・・
私から言わせれば、実に大決断です。
手放したとなると、男の子はたいへんに
厄介な代物に変わってしまいます。
糸の切れてしまった奴(やっこ)凧は、操るための自由がききません。
第一、凧というものは、その着地点さえ自分で決めることが出来ません。
風任せの放浪では、待つ身とすれば、心はおだやかでは無いでしょう。
もう、丸2年にもなるということですが。」
「70年安保の直後に、施政権返還前の沖縄が見たいと言って、
パスポートを取得して、、そのまま東京から
沖縄へ渡ってしまいました。」
「あらぁ、まぁ・・・ずいぶんと過激派です。
彼は、全学連系の活動家でしたかしら・・・・
私の記憶では、武術が大好きで活発な男性ですが一方では、
文学や演劇も好きで美術をたしなみ、絵を描く方向に職を求めていたと、
聞いて居たような気がしましたが」
「本人は、デザイン系でイラストレーターが志望です。
70年安保では、国会まで連日デモ行進に行ったくらいの人ですから、
おそらく、その延長線上のまま、
気持ちが沖縄まで、飛んでしまったのだと思います」
作品名:「レイコの青春」 10~12 作家名:落合順平