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月見草(ある帰省)

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その中で変わった取り合わせの二人が何やら真剣に議論していた。
一人は一升瓶を片手にした中年の男性で、もう一人は若い女子大生であった。
「おい、姉ちゃん旅行の帰りか?楽しかったか?」
「違います。就職試験を受けにいったの。おじさん酒臭いよ。」
「うるさい、俺はな、おとつい刑務所を出て来たばっかりで久しぶりに好きな酒を飲んでいるんだ」
「あっ、そう。そうやって飲んだくれてまじめに働かなかったら、また刑務所ゆきになるわよ。」
さっきのイチゴちゃんに比べたらなんと気の強い女性だろうと感心しながら聞き耳を立てた。
「なーに心配することはない。俺には昔、面倒をみてやった舎弟がいっぱいいるからな。門司まで行きゃなんとかなる。」
「シャテイって何よ。子分の事?そんな他力本願だからだめなのよ。ちゃんと仕事しないとだめだよ。」
「仕事、仕事って、お前はどんな会社受けたんだよ。」
「教員試験です。大阪の。」
「へぇー先公か。どおりで説教が好きな訳だ。あのなぁ人生てものはそう簡単じゃねぇんだぞ。
いろいろあるんだ人によってはな。
したくねぇ事もしなくちゃならないことだってあるんだ。」
したくねぇ事もしなくちゃならない、、、か。
実社会で働くってことはそういう事の連続なのかもしれないな、、。と同感しながら聴いていると
「わたしだってそれくらい解ってます。
でも、おじさんは人に迷惑をかけたから刑務所に行ったんでしょ。
もっと真剣に考えなきゃだめだよ。」
これは喧嘩になるなと思ったが、そのオジサンはなにやら楽しそうな表情をしていた。
きっと、おちぶれた自分にむきになって向かってくる若者のエネルギーが心地よかったのかもしれない。
「あっ、月見草。」
列車は光駅で一時停車をしていた。
線路を2、3本隔てた向こうに月見草が月明かりに照らされていた。
女子大生の言葉と視線に私もオジサンも月見草を発見した。
「よし、待ってろ。」
とオジサンは扉を開けると列車から飛び降りた。
「待って、おじさん。だめだよ。
列車が発車しちゃうよ。」
ほどなくオジサンは3本の月見草を手にして、ズボンの裾を夜露に濡らしながらもどってきた。
間近に見る月見草は想像よりも大きくて鮮やかであった。
そうでなければ遠くから眺めて目立つはずはなかった。
「ほらっ、お前にやるよ。」
なんかオジサンかっこいいなあと思った。
女子大生は満面の笑みを浮かべながらも再び説教じみた口ぶりで
「まったく無茶苦茶ねえ、列車が発車しちゃたらどうするつもりだったの。」
というと今度は鼻歌を歌いながら空になった一升瓶を洗面で洗うと、鮮やかな淡黄色の月見草の下の部分の葉を取ってその一升瓶に活けた。

 完。
作品名:月見草(ある帰省) 作家名:今 治水