~双晶麗月~ 【その5】完
◆第13章 表と裏◆
「え…!ここ…なんで…?」
私は暗い海底の岩場に意識が戻っていた。突然の状況の変化に私は戸惑いを隠せなかった。
私の両腕には重い鎖がつけられている。そして回りは大きな岩が積まれ…
「雄吾!ミシェ!ラシャ!」
薄暗い岩の隙間から叫んでも、誰の姿も見えない。
自分の両肩を見ても、痣一つ残されていない。
あの後どうなった…?あの光はいったい……?
その後も大声で何度も叫んだが、誰からも返事が返ってこなかった。
私は必死に何度も叫んだ。思い当たる人の名前を叫び続けた。だが、何も変わらなかった。私はそれでも叫び続けた。
そして私はついに疲れ果て、声が枯れた頃、急にあのミシェルにもらった白いハンカチを思い出した。
「そういえば……この海底にいても、このハンカチ、あるんだな……」
いつもと同じようにポケットに入っていたそのハンカチを、そっと取り出した。
海底で広げるとそれは、ゆらゆらと広がり、自ら泳いでいるようだった。
「これの使い道……あるって言ってたよなぁ……あの時聞いとけばよかったな……」
しばらくそのゆらゆらと揺れる白いハンカチを見つめていた。
「あれ……?」
気付くとそこには以前ミシェルに渡された時にあった紋様、そう、私の腕にあった痣と同じ紋様ではなく、別の紋様が浮き出ていた。
「これ……何かに見えるな……なんだろ……」
そのハンカチを手に取り、紋様の部分を指で触れた。
「ロープ?違うな……なんかこれ、翼?翼のついた蛇……?……あぁっ!」
私は一番重要なことをやっと思い出していた。
【ニズ……!】
脳内でそう叫んだ私の声は、海底全てに響き渡るようにエコーしていた。
作品名:~双晶麗月~ 【その5】完 作家名:野琴 海生奈