Haus des Teufels
§ 解読 §
「二つ、聞きたい事があります」
私は、きっぱりと言った。
「一つは、真子ちゃんの魔力です。呪いと関係があるのですね?」
単刀直入な質問のほうが、彼にも答えやすいだろう。
「もう一つは、どうやってバラバラの神聖文字を解読したか、です」
「解読は、現代の科学技術の賜物じゃよ」
老人は六面体を見つめた。
「花崗岩には、斑晶と呼ばれる大きな鉱物粒があるのじゃ。
その配置は、人間の指紋と同じで二つと同じものは無いのじゃよ。
断面を画像処理して斑晶地図を作り……
後はコンピュータで共通点を配列し直せば、もとの形に再現できるのじゃ。
しかし、これには一つ問題があってな。
元の文章が、一枚の石版に彫られていた場合にしか使えん。
ご覧の通り、残りの五面は全て違う石質じゃった。
世界中の花崗岩が集まっておる。
まるで、こう調べられる事を知っておったように……」
なぜ一面だけ同じ石版を使ったのか……。
意図的になのか、それとも気まぐれに作られたのかは分らなかった。
他の面はトラップで、その解読できた面にだけ意味があったのかも知れない。
「その面には、何が書かれていたのですか?」
老人は奥の棚から、無造作に置かれた二枚の図面を持って来た。
「読めるかね?」
図面と思ったのは、正しい順番に並んだ神聖文字の原文と、その訳文だった。
アラビア語で書かれた『コーラン』のように美しかった。
“これは隠された神の話である。その神は光と闇の彼方より現れた。……”
今から、6000年以上前の年代物。
世界最古の神話だった。
『死海文書』や『ナグ・ハマディ写本』よりは、かなり高く売れるだろう。
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月