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The El Andile Vision 第4章 Ep. 5

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 ただ黙って、モルディとその集団を睨みつけているだけだった。
「――どうした。……おまえが従わぬというなら、ここにいる奴らを皆殺しにするまでだぞ!」
 モルディが苛々とした口調で促した。
「行くな、イサス!奴らの言うことなんざ、きくこたあねえ!」
 サウロが叫んだ。
 しかし、そのときイサスの足はゆっくりと動き出していた。
 彼はサウロを押しのけるようにして、まっすぐモルディの前へ進み出ていく。
「……そうだ。おまえもだいぶ賢くなったな、イサス。それでいい」
 モルディがにやりと笑った。
 ――と、その笑いはすぐに唇の上で凍りついた。
 イサスが袖の中に隠し持っていた小刀。
 その刃先がちらと彼の視界を掠めた。
 ――こいつは……!
 危険信号が灯る前に、イサスの手が動くのが見えた。
「この……!」
 モルディは、危ういところでイサスの刃から身を交わした。
 身を守ろうとかざした手の甲に痛みが走る。
 手袋が破れ、切れ目から血が滲み出ている。
 モルディの顔がかっと憤怒に燃え立った。
(――舐めた真似を……!)
「――狼め……許さん!」
 彼の長剣が宙を舞う。
 イサスは飛び退って、通りの真ん中へ出た。
 周囲の兵士達も、最初の動揺が静まると、忽ち色めき立って、その標的に向かってそれぞれ剣を引き抜いた。
 そこへ――
「……イサーッ!」
 レトウ・ヴィスタが、勢いよく輪の中へ飛び込んできた。
「――加勢するぜ!」
 騎兵たちを押しのけるように割り入り、イサスの前に回りこむ。
 その左手には既に短剣がしっかりと握られていた。
「レトウ!」
 イサスは険しい視線を彼に向けた。
「――無理するな。おまえ、まだ右手も使えないんだろうが」
 イサスが言うと、レトウはにやりと笑った。
「今のおまえさんよりゃあ、働けるさ。――そっちこそ、無理すんなよ。その体で、こいつら全員相手にすんのは無茶ってもんだぜ」
 イサスは軽く溜め息を吐いた。
 レトウ・ヴィスタの頑固さは今に始まったことではない。
 それにどのみち今は言い争っている場合ではない。
「レトウ、てめえ――邪魔すんじゃねえよ!」
 ティラン・パウロが怒鳴りながらレトウの前へ出てきた。
 レトウはふんと鼻を鳴らすとあからさまな嘲笑を含んだ目で、ティランを見た。
「ほーお、こりゃまた、ご大層なカッコだねえ。とうとう軍服纏ってご登場ってわけかい?」
「……舐めんなよ。いつまでもやられっぱなしってわけじゃねえんだ!」
 ティランはいきり立って剣を振りかざす。
「――ハッ、前にも言ったろうが!利き手じゃなくても、おまえなんざにゃ、やられねえってな!」
 レトウは不敵な笑みを浮かべたまま、ティランの剣の前に身を躍らせた。
 一方、他の兵士たちは構わず、一斉にイサスに標的を定めたまま、今まさに刃を動かそうとしていた。
「殺すな!……生け捕りにするのだ!ユアンさまの命を忘れるな!」
 己自身興奮に駆られながらも、モルディは何とか冷静な指示を下し、兵士達にそう怒鳴りつける。
 イサスは、小刀を手に獣のような燃える瞳で兵士達を睨めつけた。
 彼の体の奥で熱いものがしきりに燃え上がっているかのようだった。
 彼は再び、『黒い狼』の首領イサス・ライヴァーである自分を実感していた。
 この感覚。
 ふつふつと体内で沸き立つ、身を焦がすような興奮の波。
(俺は……やはり、俺だ……!)
 イサスは体の痛みも忘れて、その感覚に酔った。
 しかし同時に、そのとき彼は、何かいつもと違うものが体の奥から駆け上がってくるような、そんな奇妙な感触に一瞬捉われた。
 ――これは……何なんだ?
 彼は、自分でもわからない、その感覚に困惑した。
 しかし、ゆっくりと考えている時間はなかった。
 周りに敵がいる。
 『敵』――その言葉に、忽ち心が過敏に反応した。
 ――敵。
 そう……倒さねばならぬ敵が。
(――やれ)
 何者かの声が、頭の奥で囁いた。
(――すべて、倒すのだ)
(――おまえに刃を向ける者は、すべて倒すがよい……)
(――躊躇うな。すべて……おまえの敵だ……!)
(――すべて……殺せ……!)
(――殺せ……!)
 その瞬間、イサスの中で何かが――変化した。
 それが何かはわからぬままに、彼はただ自分の体が勝手に動いていこうとしているのを感じ、愕然とした。
 ――誰だ?
 ――おまえは、誰だ……?
 しかし、その問いに答えはなかった。
 ただ彼の体は――
 彼の意志を無視するかのように、目の前の敵に向かって、既に動き出していた。

                                            (...To be continued)