小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かいかた・まさし
かいかた・まさし
novelistID. 37654
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

さくらの正体

INDEX|6ページ/6ページ|

前のページ
 

「君のことがずっと心配だった。総理とのインタビューで、ただじゃ済まないだろうと思ってね。田母神は、怖い男だ。それで、君の警護をこっそりとするように頼んでおいたんだ」
と言う小津のそばに団十郎がいた。
「さくらさんを見初めたは僕だもんね。責任もって守る義務があると思ってね。ボスの怪しいことには首をつっこまない主義でいたんだけど、自分にとって最も育て甲斐のある君に手を出すんじゃあ、ほっとけなくてさ、ワゴン車に連れ込まれるところを見て、すぐに連絡したのさ。恐らく、ここに連れてこられただろうっと思ってよ。あ、そうだ、壊された携帯見つけたけど、中のメモリーカードは無事だったようだ。何かあるんだろうと思って拾っといたよ」
と言った。
しばらくして、倉庫の外で、サユリと小津は、二人きりになり、夜の港の海を眺めていた。

「さあ、そろそろ、君は本来の君に戻る時じゃないのか。さくらの花びらを散らし、君らしさを見せるため、葉を出すときに来ているのじゃないのか」
と小津。サユリは、こう答えた。
「ええ、承知しています。私にできることがあるのなら、何でもするつもりです」

数週間後

この数週間、「上野さくら」こと、上原サユリは大忙しの日々を送った。

田母神の逮捕の後、阿冒総理との癒着関係が発覚。それにより、総理は辞任。

与党は、大幅に支持を失い、選挙後に議席を失いかねない与党議員から離脱が起こり、それら議員と野党によって内閣不信任案が可決され、衆議院は解散となった。

サユリは、所属プロダクションが総理との癒着スキャンダルにもまれたため、他の所属タレントと同様に活動休止に追い込まれた。

また、それ以上に、サユリ個人に問題が持ち上がった。

経歴詐称疑惑だ。年齢、そして、学歴をごまかし続けてきたのではないかと。

ネット番組での彼女の総理とのやり取り、その後、総理とボスである田母神の悪事の証拠をしっかりつかみ取ったことから、これまでの「アイドル」としてのイメージとかけ離れている言動に疑惑の声が発せられた。

もうアイドルを続けることはできないと悟った。そして、今こそが潮時だと。

「さくらとトーク」が数週間ぶりに、それも最終回として放送された。

ゲストはいない。話すのは、司会である上野さくら一人である。

ファンとの最後の大事な話であると予告を出していた。

誰もが引退宣言であることを分かっていたため、その注目度は非常に大きく、番組放送開始以来、最終回にして最高のアクセス数となった。

サユリは、つけ毛を取り、元の短髪ヘアスタイルになり、染めていた毛も黒色に戻した。

コンタクトを外し、メガネをかけた状態で登場。服は、黒色の地味でフォーマルなスーツをブラウスの上に着てとてもかしこまった感じだ。

そして、サユリらしい話し方で話を始めた。

「みなさん、こんにちは。予告のとおり、本放送が最終回となり、私にとっては、上野さくらとしての芸能活動の最後となります。私の本名は、上原サユリです。年齢は、25歳です。デビューをしたときは、22歳でした。ですので、3年も年齢をごまかしていたことにあります。芸能界ならよくあることですよね。

そして、お噂のとおり、その他の経歴にも嘘がありました。

それは、私が東京大学の法学部出であったことです。元々は、今の姿のように短髪でメガネをかけていた、俗にいう秀才タイプの女性でした。ですので、これまでさくらとして親しまれた愛想のよく、世間知らずでお気楽なイメージは、作りものです。

そのことを聞いてみなさんは、裏切られたって御思いかもしれません。

なぜこんなことになったのかを説明します。

私がアイドルとしての活動を始めたのは、弟の病気を治すための手術代を稼ぐためでした。

とっても大きな額のお金が必要だったのです。ですので、自ら望まないことでもしなければいけませんでした。

でも、やってみるととても楽しかったです。偽りの自分を演じながらも、みなさんと交流ができてすばらしかったです。

多くの人々に応援され、愛され、とてもうれしかったです。でも、皆さんが慕っていた上野さくらは、真実の私ではありません。

私のファンだった多くの人たちは、さくらと同年代で、さくらと趣味や考え方が共感できる女の子たちだったと思います。

だから、そんなさくらになり澄ましました。

幻想だと分かって私を応援していた人たちもいたでしょう。でも、多くは、「さくら」が私の生の姿であることに疑いもなく慕っていて、今になって裏切られたと思っていると思います。

だけど、それが芸能界というもの、世間というものなのです。私は、そんなものだとある程度分かって、この世界に入りました。

私に限らず、芸能界にいる方々はみんなそんな人たちだと思います。

私を世に送り出したボスだった田母神は、まさにそんな人でした。私を使い金儲けをして、その儲けを私と分けることで、互いにビジネスをしていたのです。まさにビジネス、商売です。

私がみなさんに売り込んだのは、私自身ではなく、売り込むために作り上げた偽のイメージです。そのイメージで楽しませながら、ものを買わせたりもしていました。

まるで悪事に加担していたように聞こえますね。その通りです。でも、私たちの社会って、そういうことで成り立っているんです。

そのことを分かってください。世の中ってそういうものなんです。

だからと言って、何でもありというわけではありません。多少の騙しをしたとしても、絶対にしてはならないこともあります。

それを取り締まるために権力を行使する政府があるのだと私は信じています。

でも、今回はその政府の長というべき人が、自らの権力を使い悪事に手を染めていました。だからこそ、私は立ち上がる決心をいたしまいた。そんな政府を変えることが使命だと。

当初、私はそんな仕事をするのが目標でした。そして、私は初心に戻ります。

これまでまとっていた「上野さくら」を散らし、そして、本来の私、上原サユリに戻ります。

そして、私のすることは、衆議院議員選に民主党から立候補することです。

もう表面だけを繕う偽りの世界はこりごりです。どんな苦難があろうと、現実に向き合い戦い続けることを使命にして生きて行きたいと思います。

それこそが、人の生きる道だと信じて疑いません。」


終わり
作品名:さくらの正体 作家名:かいかた・まさし