小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

なにサマ?オレ様☆ 司佐さまッ!

INDEX|49ページ/58ページ|

次のページ前のページ
 

26:コトハのパパッ?



「コトハと一緒に住みたいと思っている」
 沢木の言葉に、一同は驚いて声も出ない。
 コトハに至っては、目の前にいる男性が自分の父親ということが、未だ信じられない思いでいた。
 驚いている一同に、沢木は静かに笑う。
「コトハは僕のことを知らないんだね。最後まで、葉月もおばあさんも約束を守ってくれたのか」
 母親の名前が出たので、コトハは沢木を見つめ、口を開く。
「あ、あなたが、本当に私のお父さんなのですか?」
「そうだよ。でも僕は、許されない罪を犯した。僕には当時妊娠中の妻もいたのに、君のお母さんを愛してしまったから……でも君が生まれ、山田家の別荘で過ごす時だけは、僕はしがらみも何もないただの男でいられた。君が生まれたことも、本当に喜んだんだよ」
 沢木はそう言って、コトハの頭を撫でる。
「そうだよ、コトハ。彼の言っていることは本当だ。軽井沢の別荘にいる時だけが、沢木がコトハの父親でいられる時だった。ずっといるわけにもいかず、また小桜家の強い意向により、コトハは今まで通り、山田家のメイドとして生きるよう決めてきたんだ」
 司佐の父親も答える。コトハは徐々に事態を理解し、頷いた。
「そうだったんですか……」
「でも、僕の家ではすでにバレていたのも事実だ。僕は妻と子供たちを残して、海外での仕事を命じられたんだ。何ヶ国か回り、仕事だけにのめり込んできた矢先、葉月の死を知らされた。もともと病弱な人だったから無念だったけど、親を失くしたコトハのことは気がかりでならず、帰国しようとしたんだ」
 沢木は遠い目で過去を語る。その話は、司佐の父親ですらも初耳のことである。
「でも、妻に対してのバチが当たったのかな……ハイウェイで車の事故に遭い、そのまま深い谷底に落とされたんだ。捜索の手段もなかったらしい」
「そうだ、そこまでは私も知っている。だが、おまえが生きていたということは……」
 司佐の父親が、間に入ってそう言った。沢木は静かに笑う。
「僕はね、事故の弾みで車から放り出されていたんだ。あまり怪我もなくてね」
「なんだって……」
「でも、夜中のハイウェイはあまり車も通らず、僕が発見されることはなかった。僕は何も考えられず、ただただハイウェイの側道を歩き続けた。事故のショックで、記憶を失くしたままね……」
「き、記憶喪失……?」
 一同はまたも驚いた。沢木は話を続ける。
「ハハ……間抜けな話だろ? 僕は結局、街に辿りついたものの、所持品は車に積みっぱなしで何もない。財布すらなくて、自分を証明する物なんて一つもなかった。だけど、僕は生きているし動けるし、現地の言葉も話せれば、生活能力もあった」
「それで、今まで……?」
「そう。家のしがらみからも脱したかったんだと思う。僕はまったく家族のことも誰のことも思い出さず、十年が過ぎた」
「十年……そうだ。おまえが死んだと聞いてから、十年が経つ」
 司佐の父親も興奮したように、沢木の話に食いついている。
「でもある日、公園で休んでいたら、目の前で遊んでいる母親と娘を見て、思い出したんだ。僕には娘がいたはずだってね。そして、一つの名前を思い出した。コ、ト、ハ……」
 それを聞いて、コトハは顔を上げる。
「それからというもの、記憶は一気に蘇った。僕はコトハのもとに帰らなきゃいけないってね」
 コトハは涙を流した。この人は、本当に自分の父親だと思った。
「それが一ヶ月程前の話だ。僕は国際電話で自宅に連絡した。反応は君たちと同じ。理解されるまで時間がかかった。でもあれだけ厳しかった親が泣いて喜んで、僕を迎えにまで来てくれた。僕は帰国を許され、家の整理もだいぶついたから、こうしてここに挨拶をしに来たんだ。コトハがここにいるとも聞いたからね」
「なんだよ。そういうことなら、もっと早くに連絡してくれればよかったのに!」
「そうも思ったけど、本当にバタバタしてたし、電話じゃうまく説明出来ないだろ? こうして話したかったんだ」
 司佐の父親に、沢木はそう答える。
「いや、いいんだ。無事で帰って来てくれただけで嬉しい。本当によかった……」
 父親もまた、感無量といった様子だ。
 沢木は寂しそうに微笑む。
「だけど、本当に浦島太郎だよ。僕は戸籍上でも死んだものとされていたし、妻はもう再婚していた。家は跡継ぎが帰ってきたから喜んでいたけどね。おかでげ大手を振って、コトハを引き取れるというわけだ。妻との間にいる子供たちは、妻と再婚相手が育てているし……」
 それを聞いて、コトハは目を泳がせた。
「突然、死んだはずの父親が生きていて、それが僕っていうことが受け入れ難いのはわかってるよ。でも、僕らは事実、実の親子なんだ。一緒に住みたいというのが当たり前のことだろ? 葉月の分も、これから一緒に生きていきたいんだ」
 優しく語りかける沢木に、コトハは俯いた。
「私も……お父さんが生きていてくれたことは、本当に嬉しいです。私を引き取りたいと言ってくださったことも……でも、私は山田様に仕えるようにと生きてきました。この家に仕えることは、私の生きがいなんです」
 コトハの答えに、一同は驚く。
「でもコトハ。急で無理もないが、沢木の家柄は間違いなく良家だ。君は本当は、良家のお嬢様なんだぞ。今までは、沢木の家庭の事情があって受け入れられることはなかったが、すでに奥さんも再婚されているというし、気兼ねなく沢木と一緒に暮らせる。もうメイドなんかしなくていいんだよ」
 司佐の父親もそう言った。
「でも、私は今日までメイドになるために生きてきました。私のお母さんもお婆ちゃんも、それを望んできたはずです。今になってそんなことを言われたら、私の生きがいがなくなってしまいます」
 コトハの言いたいこともわかり、一同は顔を見合わせる。
「まあ急に言われて出る答えもないだろう。沢木、今日はうちに泊まれるか?」
「ああ、でも明日の早朝には帰らねばならない。まだ家がゴタゴタしていてね」
「じゃあ、とりあえずコトハには一晩考えてもらって、昔話でもしようじゃないか」
「そうしよう」
 司佐の父親と沢木は、もうすっかり元通りになったようで、笑い合っている。
 そんな中で、コトハと司佐は客間を出て行った。
「……願ってもない話じゃないか」
 出たところで、司佐がそう言った。
「え?」
「断る理由は一つもない。父親と一緒に暮らしたくないのか?」
「それは……もっとたくさんのことを知りたいとは思います。あの方がお父さんだとまだ実感はありませんが、私のことを考えてくれていることで、お父さんなのだと思っています」
「だったら考えるまでもない。今すぐ返事をして来いよ」
 司佐はそう言ったところで、コトハが涙をいっぱい溜めているのに気付いた。
「コトハ……?」
「司佐様は……私がいなくなっても、全然大丈夫なんですね。それとも本当に、私がお邪魔ですか?」
 必死に微笑みながら、コトハは涙を溢れさせる。
「そういうわけじゃない。でも……ここにいる理由はないだろ」
 司佐の言葉に、コトハは涙を拭う。
「わかりました。今までありがとうございました……」
 そう言って、コトハは走り去っていった。