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なにサマ?オレ様☆ 司佐さまッ!

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 運転手の坂木が尋ねた。彼もまた、運転手としてずっと司佐の送り迎えをしている。
「人前でぼっちゃんって言うなって言ってんだろ。銀座まで」
「大変失礼致しました。かしこまりました」
 後ろの座席では、司佐を挟むようにして女子が座っている。
「キャー。セバスチャンもカッコイイ。さすが山田家の運転手さん」
「セバスチャンって誰だよ」
 うるさいまでの女子に、司佐が怪訝な顔をして尋ねた。
「運転手さんだよ。運転手さんはセバスチャンって感じでしょ?」
「そうか?」
「アニメの話? それを言うならスチュアートじゃない? セバスチャンは執事だろ」
 真面目な昭人が、真顔で口を挟む。
「ええ? セバスチャンでしょ。そっちのほうが、ぽい」
 女子はくだらない論戦を始めるので、司佐は苦笑して口を開いた。
「ハハハ。んじゃ、今日から坂木はセバスチャンな」
「ええ? 勘弁してくださいよ」
「うるさいぞ、セバスチャン」
 車の中は、和やかな雰囲気に包まれた。
「ねえ司佐君、手見せて。私、手相にハマってるんだ」
「当たんのかよ?」
「勉強中」
 そんな会話を交わしながら、女子は両側で司佐の手を握る。司佐は愛もなく近付いてくる女子たちを遠ざけようとはしない。
 そんな司佐は、ふと車の外を見て目を開いた。
「止めろ!」
 司佐の声に、車は路肩に止められる。
 女子たちを押し退けて車から降り、司佐は辺りを見回した。
「司佐?」
 慌てて追ってきた昭人が、怪訝な顔をして尋ねる。
 司佐は目を伏せ、車に戻ると、女子たちを車から降ろした。
「降りて」
「え? でも、司佐君……」
「今日のデートはなし。勝手に帰って。バイバーイ」
 女子たちを街の中に放り出し、司佐は昭人とともに後部座席に乗り込むと、家へと帰っていった。

「どうしたんだよ、司佐。あの子たち、可哀想に」
 そう言う昭人の横で、司佐は外を眺めている。
「じゃあ、おまえが慰めてやれ」
「司佐?」
「……鳩子(はとこ)さん。覚えてる?」
 おもむろにそう言った司佐に、昭人は頷く。
「ああ……司佐の初恋の?」
 昭人はそう言ったものの、ずいぶん昔の記憶を辿る。司佐と同じく一度だけ会っているのだが、その顔までは思い出せない。
 まだ二人が小学部に上がって間もない頃、地方に家族ぐるみで出席したパーティーに来ていた女性に、司佐は恋焦がれていた。
 すでに当時も大人の女性だったが、儚げな容姿、優しい笑顔が、今も司佐の中で理想の女性像として君臨しており、今まで何度も話題に上ってきた話でもあるが、ここ数年では久しぶりに出た話題である。
「そう。なんか似てる人がいた気がして……」
「もう十年も前だよね? 相当な年になってると思うんだけど」
「うるさいな、昭人! 俺だってわかってる。でもさ、やっぱり忘れられないよ。初恋だもんな」
 珍しく頬を染める司佐に少し呆れながらも、昭人は静かに微笑んだ。

 しばらくして、一同は家に着いた。気晴らしといって買い物をしていたため、いつもより時間が遅い。
 ふと見ると、山田家の正門前で、立ち往生している少女が目についた。
 司佐はさっきから初恋の人を思い浮かべていて、見るものすべてがその女性に見える。
「鳩子さん? いや……似ても似つかねえ」
 一瞬目を疑ったが、残念そうに司佐は舌打ちをする。
「でも、何やってるんだろう。屋敷の前で」
 二人が首を傾げていると、運転手の坂木が車を降りた。
「君、何をしているんだい?」
 その問いかけに、少女は笑顔でお辞儀をした。
「こんにちは。本日付で本宅勤務として配属されました、メイドの小桜琴葉(こざくらことは)と申します!」
 ズルッ、と、司佐は肘をついていた窓枠から滑り落ちた。