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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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プール

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水面はきらきらと輝いた。
その光は眩しくて、目をそらしたくなる。心は暗く影の中に落とされていくようだ。太陽は憎むべき存在。いいや、愚かな自分自身の心。
ひやりひやり、水を浴びてすっと消えてしまえたらと願う。












静かな空間。
誰もいない学校のプール。周りは緑に囲まれ遠くに校舎が見える。
雑草が取り囲むこの世界は水だけ。人は誰もいない。



僕は誰だろう。

僕はただ、ひとり、学校のプールサイドに立っていた。
空は晴れているはずなのにぼんやりとした色で。なにもかも現実感がなかった。ちらちらとプールの水が光を反射して揺れる。その光だけがこの世界で生きているように思えた。

どうして誰もいないんだろう。この世界には僕しかいないように思える。不思議な感覚。けれど、孤独ではない。何か無のように落ち着いている。満たされる訳でもない、欠けている訳でもない。

目の前のプールは不自然なくらい清潔で、消毒液の匂いを放っていた。気持ち悪い……僕は吐き気がした。僕は水が嫌いだ。特に清潔なプールの水を嫌悪していた。
相変わらず、プールの水は太陽の鈍い光を反射してちらちらと光っていた。
やはり、まるで生き物のよう。





ふと、自分の姿に目を下ろす。

僕はセーラー服を着ていた。
確かこの白は夏の服。
僕は女だったか。男だったか。……上手く思い出せない。女、男、確かそういうものが人間だったような気がする。僕は人だったのだろうか。そのことももうよく分からない。すべてが曖昧で、自分の存在自体が不確かだ。

ただひとつだけ、はっきりとしたこと。

僕は死んだのだ。
なぜかそう思える。どうして死んだのか、なぜ死んだはずなのにここにいるのかよく分からない。何もかもわからない。
瞳は、ただ、たゆたう水面を眺めていた。時間の感覚なんてない。あやふやで溶けていきそうな空間。きっと、閉じこめられたのだ。
作品名:プール 作家名:冬野すいみ