~双晶麗月~ 【その4】
◆第10章 届かぬ想い◆
「あン時……なんで泣いてたんだよ」
ようやく雄吾の言葉を聞き取れた。私の方を向いて話している。
私たちは隣同士でソファーに座り、しかもいきなり聞こえた言葉がこんな質問で、私は戸惑ってしまった。
私の口は勝手に答える。
「心配かけてごめんなさい……雄吾の前だったから……」
「咲夜、今日はやけに素直じゃん?兄貴と仲直りしたのか?」
「え、えぇ……兄さんは、もうそろそろ帰ってくるかもしれないわ……」
《『兄さん』? いやいやいや……私そんな風にミシェルのこと呼んだことないんだけど!》
私は、自分の口が勝手に答える内容にひどく驚いていた。
そして、雄吾も不思議に思ったらしく、私の顔をマジマジと見た。
「おいおい大丈夫か?やけにしおらしくなったもんだなぁ〜。熱でもあんじゃねぇか?」
雄吾は私の額に手を当てる。だが、その手からさりげなく逃げるだけの私。
いつもの私なら引っぱたくんだけど…まさかこれ、夢とかってオチじゃないよなぁ……
「大丈夫よ。確かに先週海見ながらずっと雨に当たってたけど、一週間経てば風邪ひいてたとしても、治ってるでしょう?」
一週間!あれから一週間も経ってるのか?その間、私はどうしてたんだろう……
それよりおかしいよな……どう考えてもおかしい……私……
特に話し方が……
勝手に動き勝手に話す自分に、どんどん違和感を感じ始めていた。
「そうじゃなくてさ…なんつーか…」
雄吾は真剣な顔をしながら私の顔を覗き込む。そして…
「な〜んでオマエ、そんな女らしくしゃべるんだよォ!」
そう言って雄吾は嬉しそうに抱きついてきた。
作品名:~双晶麗月~ 【その4】 作家名:野琴 海生奈