御影山編
「お前の服だ。靴からジュエリーまで、一式入っている。当日はこれを着ろ」
「着ろって、ええっ?」
「お前のクローゼットを見た限り、パーティーに着ていけそうな服が一つもなかったからな。揃えておいた」
「揃えておいたって……」
そんな、確かにパーティーなんて行った事無いし、そんなお洒落な洋服なんて持ってないけど! っていうか、何で私の服のサイズ知ってるの? それにお金どうするのよ! ああ〜、なんか色々訳わかんないんですけど!
混乱しているのが分かったのか、社長が肩をすくめる。
「うちの連中は俺も含め、ああいうパーティーが嫌いなんだ……。取りあえずお前には最初で最後の仕事になるかもしれないから、経験させておいてやる。他の連中の代わりに会社代表として出席出来るんだ、ありがたく思え。サイズは昨日お前を抱きかかえたから大体の見当はついた。洋服代は心配いらない。貧乏人から小銭を巻き上げるほど金に困っていないのでな」
それはそうでしょうけど……抱きかかえたから見当がついたって、なんかすっごい恥ずかしいんですけど。ていうか、体よく皆がやりたくない仕事を押し付けられたって訳ね。
「何があっても秀麗に負ける訳にはいかない。いいか、新作発表会の後にも仕事は山積みだ。このグロスがヒットしなかったらお前は一生俺の小間使いなんだからな。約束を忘れるな?」
「……」
なっ、なんで会社の掃除の仕事から社長の小間使い(しかも一生って!)に就職先が降格してるのよ!
「体調は今日中に治せ。しっかり食ってしっかり寝ろ。いいな?」
「はい」
「俺は会社に戻る。もし、何か必要な物があれば連絡しろ」
それだけ言うと、社長は甘い残り香を置いてアパートからいなくなってしまった。
連絡しろって言ってたけど、ケーキが食べたい。とか言ったらどうするんだろう? もしかして買ってきてくれるとか? おかゆが食べたいって言ったら作ってくれるの? ―――まあ、そんな訳ないだろうけど……何だろう。社長が帰っただけなのに、急に部屋が寒くなったような気がする。
忙しいだろうに、わざわざお見舞いに来てくれて、しかもこんな洋服までくれて―――
やっぱりなんだかんだ言って優しいんだな。社長。
「わあ、綺麗……」
箱を開けると、中にはターコイズカラーのハイウエストワンピースが入っていた。それに合わせたミュールと、シンプルなバッグ。そしてシルバーのブレスレット。少しラメの入ったワンピースはふわりとしたスカートで、歩くときれいに揺れるように出来ている。
こんな高そうな物もらって、本当にいいのかな? ―――いや、これをやって良かったって思ってもらえるように、しっかり体調整えて頑張らなくちゃ!
私は社長が買ってきてくれた食べ物を一気に食べると、薬を飲んで布団を頭から被った。
社長、ありがとうございます! 私、頑張ります!!!