御影山編
「おはようございます、社長。と、葉月さん」
「おはようございます、川島さん」
「川島、今日から葉月はここで働く。お前が色々とサポートしてくれ」
「はい、分かりました」
川島さんは細身の男性で、昨日案内してくれた時に話した印象は大人しい感じ。正直こんな大人しい人で御影山社長の秘書がよく務まるな、なんて思った。
でも美成堂の社長秘書って言ったら、きっとものすごいやり手なんだろうな。
「さっきの部屋にいたのは川島の秘書だ。俺への電話取り次ぎや書類の整理を担当している。川島は俺のスケジュール管理や代理で仕事に出る事もある」
「はあ」
なんだか良く分からない。社長秘書は川島さんで、その川島さんの秘書がさっきの女の人2人? 社長より秘書が多いってどういうことなんだろ?
「それで、お前の一番最初の仕事だが……」
「あ、はいっ!」
秘書が3人もいるんだもん、私は雑用よね。
そう思って元気に返事をすると、川島さんからファイルを渡された。
「今度発売する新製品について書かれた書類をまとめてある。今日、その新製品についての会議が行なわれる。お前も出席しろ」
「えっ!? 私も、ですか?」
「当たり前だろう。曲がりなりにも社長付きなんだ、そのお前が新製品の事を把握してなくてどうする。出来ないというなら、今日からでも掃除をしてもらって構わないんだぞ」
「いえっ! やります! しっかり頭に叩き込みます!」
私は慌ててファイルを胸に抱くと、肩にめいいっぱい力を込めた。
「よし、今日中にお前の机を用意させる。取りあえずは隣りの応接室を使え」
そう言って社長は入って来たのとは別のドアを親指で示した。
応接室は別にあるんだ……目の前にも立派な来客用のソファーと机があるのに。
「葉月さん。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
川島さんは優しく微笑むと、隣室へ案内してくれた。
「会議までまだ時間があります。今日は商品のおおまかな内容を把握して、これからしっかり勉強していけばいいんですよ」
ああ、地獄で仏とはきっと川島さんの事ね。あの社長とは正反対。良かった、いじめられるばっかりじゃないわ!
「ありがとうございます。本当に何をしたらいいのか分からないので、色々と教えて下さい」
ぺこりと頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。あんな社長ですが、本当は優しい方なんですよ」
そう言い残して川島さんは部屋を出て行った。
優しい? あの御影山社長が? 川島さん、こき使われ過ぎてきっと脳みそが疲れてるのね。可哀想。―――っと、仕事仕事。
とにかく今は社長に言われた通りに仕事をして、何が何でもこの新製品を大ヒットさせるんだから!!