御影山編
会社に戻り、書類の整理をしていると終業時刻になっていた。今日もたくさん勉強になったなあ。開発センターもこれから何度も足を運ぶだろうし、何だかんだ言って社長は私の為に忙しい合間に色々と教えてくれるし。―――と言っても自分に迷惑がかからないようにだろうけど。でも、それならわざわざ私みたいな素人を自分の手伝いに付けるのは不自然よね。うーん。一番最初があんなだったから面白がってるのかも。
なんて帰り支度をしながら頭の中でぐるぐると物思いに耽っていると、ふいに携帯がメールの着信を知らせた。
「あれ。誰だろ」
カレンかな、なんて思いながら携帯を操作すると、メールの送信者は白波瀬さんだった。
うわっ、本当にメールしてきてくれたんだ! なんてちょっと頬が緩んでしまう。だってあんな出会い方なんだもの。なんだかんだ言ってもその場限りかな〜なんて、ちょっと思ってたりもした。
『お疲れ様です。先日はどうも有難うございました。今晩のご予定は何かありますか? 良かったら一緒に食事に行きませんか?』
胸の高鳴りを覚えながらメールを開くと、そこにはこんな文面が躍っていて、鼓動は今度こそ完璧に早くなった。
「ど、どうしよう」
すごく嬉しい! でも、よく知らない男の人と一緒に食事って言うのもちょっと……あれかな? でもでも、白波瀬さんは私と同じく化粧品メーカーで奮闘していて、しかもうちの会社の人達みたいに完璧な出来る人間! っていう感じでもないのよね……。我ながら失礼な評価だとは思うけど、あの少し気弱そうな柔らかい雰囲気がなんともいえなく安心させてくれるっていうか……。会社は違うけど、一緒に頑張れたらいいな! ってそんな風に思える相手なんだもん。
うん、白波瀬さんと会って、緊張をほぐそう!
嬉しい旨を伝えるメールを打つと、ちょうど終業時刻になった。鞄をひっつかんで急いで会社を出た。
今朝社長にメイクしてもらっておいて良かった! 朝から化粧が崩れないっていうのがまたすごいけど、社長に感謝だわ!