春日編
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待ち合わせの場所に着くと、既に白波瀬さんは立っていた。私の姿を見留めると、右手を軽く上げてくれる。
「ご、ごめんなさい! お待たせしましたっ!」
慌てて頭を下げると、白波瀬さんも恐縮したように背筋を伸ばす。
「い、いえそんなっ。僕の方こそ少し早く来てしまいました。気を遣わせてしまってすみません」
私と同じように頭を下げる白波瀬さん。二人でぺこぺこしあってしまい、思わず二人同時に笑いだす。
「あははっ、何かおかしいですね、僕達。えっと、それじゃこの近くに知ってるお店があるんで、そこでいいですか?」
「はいっ!」
白波瀬さんの案内してくれたお店は、社長と出会ったあのバーのすぐ近くのイタリアンレストランだった。
「こんなお店もあるんですねぇ」
「この辺は実は結構穴場なお店が多いんですよ。あそこのバーも雰囲気がいいんです」
「そ、そうなんですかぁ〜」
指し示されたバーはまさしくあのバーで、思わずあの日の失態を思い出してしまい、軽く口ごもってしまった。変な風に思われないといいけど。
「じゃ、入りましょう」
そんな私の内心は気にも留めていない様子で、白波瀬さんがレストランの扉を開けて中へと促してくれた。中はオシャレではあるけれど、オレンジ色の照明が優しい雰囲気で白波瀬さんのイメージにぴったりのお店だなぁ、なんて思わず感心してしまう。
席に通され、各々注文を済ませると話は自然に仕事の方へと向いていく。
「そういえば葉月さんは学生さん――ですか?」
「はい。大学4年です」
そう言えばまだちゃんとした自己紹介もしていなかった、なのに一緒に食事をする事が嫌じゃない。やっぱり白波瀬さんの持つ柔らかい雰囲気のおかげなのかな? そんな事を内心でぽつりと考える。
「じゃあ就職はもう?」
「いえ、それが……まだ」
「今は厳しいっていいますもんねぇ」
そう言う白波瀬さんの顔には心底私を心配してくれているという表情が張り付いていた。
「あ! でも今、研修はしてるんです!」
心配そうなその表情を少しでも和らげたくて、思わずそんな事を口走った。
私がそう言うと白波瀬さんはほっと小さく息を吐いた。
「それは良かった!」
「はい! しかも化粧品メーカーなんですよ〜。白波瀬さんと一緒ですね!」
「えぇ!? そうなんですか! うわぁ、すごい奇遇ですね〜!」
化粧品メーカーというと、白波瀬さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。やっぱり同じ業種の人とこんな風に知りあえるのって嬉しいし、親近感もわいちゃうよね!