春日編
その後、別の商業施設の店舗へ向かい、春日さんは見事な営業をやってのけた。
会社へ戻り、和田さんと田村さんと別れた後、私と春日さんは営業部へ戻って来た。
「どう? 少しは営業の仕事がどんなものか分かった?」
「はい、とても勉強になりました」
「まあ、あんたには僕みたいな営業トークは期待してないから、明日からはそのひどい顔さえしないで出社してきてくれればそれでいいよ」
何も言い返せない。もう寝不足でクマなんてことは気をつけるけど、期待してないなんて言われるとすごくくやしい。けど、春日さんみたいに上手に相手の心を掴む話術が出来るようになるとは思えない。
……だからこそ、私なりに努力して、私にしか出来ない営業を身につけるんだ!
「―――昨日の威勢はどこにいったのやら……」
「え?」
「何でもない。今日の営業で回った所について内容をまとめて、後で提出して」
「はいっ、分かりました」
私は急いで自分のデスクに戻ると、パソコンを立ち上げた。
どれくらいそうしていただろう。気付けば時刻はすっかり夕方。なんとか書類を作って春日さんに提出すると、帰って良いと言われた。
時計を見るともう終業時間だ。
「お疲れさまでした」
頭を下げた私に小さく頷いただけでそれ以上何も言わない春日さんに、私は無性に悲しくなってしまった。
ううっ、春日さんに信頼してもらえるようになるまで、我慢我慢!
そう。自分に言い聞かせ、営業部を出た所でふいに携帯がメールの着信を知らせた。
「誰だろ」
カレンかな、なんて思いながら携帯を操作すると、メールの送信者は白波瀬さんだった。
本当にメールしてきてくれたんだ! なんてちょっと頬が緩んでしまう。だってあんな出会い方なんだもの。なんだかんだ言ってもその場限りかな〜なんて、ちょっと思ってたりもした。
『お疲れ様です。先日はどうも有難うございました。今晩のご予定は何かありますか? 良かったら一緒に食事に行きませんか?』
胸の高鳴りを覚えながらメールを開くと、そこにはこんな文面が躍っていて、鼓動は今度こそ完璧に早くなった。
「ど、どうしよう」
行きたい気持ちは山々! でも今日の私のコンディションは最悪――ってこんな時こそカレンよ! って私は仕事中に何を考えてるのよ〜! ……でも白波瀬さんは私と同じく化粧品メーカーで奮闘していて、しかもうちの会社の人達みたいに完璧な出来る人間! っていう感じでもないのよね……。我ながら失礼な評価だとは思うけど、あの少し気弱そうな柔らかい雰囲気がなんともいえなく安心させてくれるっていうか……。会社は違うけど、一緒に頑張れたらいいな! ってそんな風に思える相手なんだもん。
嬉しい旨を伝えるメールを打つと、ちょうど終業時刻になった。鞄をひっつかんでカレンの元へと急ぐ。