現代異聞外伝/杉沢村
雲も星明かりも月光も、全てが小さく霞んでいった。
殺さないで、と叫ぼうとした口の中に汚泥がねじ込まれる。
強烈な嘔吐感が込み上げた。吐くこともできずに、涙に濡れた視線だけで助けを求める。
閉じていく視界の中一杯に、少年の姿が映し出された。
ひどく歪んだ──楽しそうな笑顔を浮かべて、
人の頭ほどもある、髑髏にも似た岩を掲げて、
「──他の人間には他の面が見えてたんだよ。そしてあんたの面だって見えてた。みんな──あんたみたいに、自分の面しか見えてないような馬鹿じゃないんだ」
──たとえ色が揃わなくたって。
──少しぐらい色が混ざってたって。
──それで完成品として許されるのが──家族だろうに。
甲高く、硝子の表面を掻きむしったような不快な哄笑を響かせて。
少年が、
大きく腕を振り上げて、
──止めて、
──助けて。
──助けてください。
──お願いだから助けて──。
「──そう言ってた家族を皆殺しにしたじゃねえか、あんたは」
岩が、
家族が穴の中で絡まり合って、
泥が邪魔で身動きもできず、
もう空は見えない──
──岩が昌子の頭を砕いて、
「あんたの不幸は──これで、全面揃って完成だな」
嘲笑が、空に向かって立ち上る。
固く閉ざされた地面を見下ろす者はもはやなく、ただ廃屋と割れた硝子だけが──物憂げに、全てを見届けていた。
【了】
作品名:現代異聞外伝/杉沢村 作家名:名寄椋司