「レイコの青春」 7~9
手狭なうえに、今度は
昼間のゼロ歳児たちが、次々と入園をしてきました。
夕方の時間が迫ってくると、保育園はかつてないほどの
大混乱状態に陥ります。
早めに出勤してくるホステスさんと、
フルタイムの仕事を終えたお母さんたちが、午後5時の時間帯を挟んで、
交互にあらわれるようになりました。
対応に追われる保母さんたちも大変ですが、瞬間的に過密状態となる
子供たちはもっと大変な騒ぎになります。
一見、簡単に思えた空き家探しは難航を続けます。
繁華街からは離れ過ぎず、かつそれ相応のスペースを持つという空き家は
そう簡単には見つかりません。
やがて、『期間限定でもよければ』と言う条件付きで、
一軒の住宅が見つかりました。
市街地を少し離れていて、桐生川の川辺に有りまるで
忘れられたかのように、ポツンと取り残こされいた、
一軒の古民家です。
子育ての終わった老夫婦が二人きりで住んでいましたが、
数年前に相次いで亡くなったために、空き家状態になっていたものです。
都心に住む後継(あとつぎ)の長男が、郷里に戻るまでの「空き期間ならば」と言う、
曖昧な条件付きでの提供でした。
広さ的には充分です。
入ってすぐ、土間から天井を見上げた一瞬に、
見学に訪れた一同からは、思わず大きな驚きの声が上がりました。
高い屋根裏の空間を、囲炉裏の煙で燻されて黒光りした太い梁(はり)が、
背骨のように、どっしりと屋根の下を貫いています。
2間続きの部屋を抜けた先で、一同から再び歓声があがりました。
そこには建物の要(かなめ)で、精神的な寄りどころの象徴ともされている
逞しさがあふれている真っ黒の大黒柱が、天を見上げるように
デンとそびえていました。
家族の長い履歴を見つめてきたと思えるような、頼もしい大黒柱の出現に、
また一同が、時間を忘れて見とれています。
作品名:「レイコの青春」 7~9 作家名:落合順平