「レイコの青春」 7~9
「最初の旦那は、お金にルーズ過ぎた。
二人目の旦那は、ひものような男でいっこうに働こうともしゃしない。
男運が無いのかしらねぇ、どこまでいっても、あたしって・・・。」
子供を迎えに来て、
煙草をくわえたままレイコに愚痴をこぼしている美千子です。
「それって・・・
上の坊やと、下の娘さんは、
それぞれに、親が違うという意味?」
「レイコくらいだわね、
そういう聞きにくい話を、平気で私に聞いてくるのは。
ええ、そうよ、その通りだわ。レイコの言う通りなのよ。
もう男なんか、まったくもってうんざりだわよ。」
「よく言うわねえぇ。
あんたは人一倍、惚れやすいくせに・・・」
後片付けを終えた幸子が、横から口をはさみます。
苦笑したまま、美千子が上の男の子、2歳になる翔太君を抱き上げました。
「この娘はわたしが。」と、レイコが眠り込んだままの乳飲み子、
綾乃ちゃんを抱えると、美千子の後に着いて狭い階段を降りはじめます。
周囲のネオンは、すでにすっかりと消えています。
うす暗い路地の先では、キャバレーの送迎専用車がエンジンをかけたまま
長い時間にわたって待機をしています。
「ありがとう。
レイコが来てくれたから助かるわね。
園長もそろそろ退院できそうだし、前途は、洋々になるかしら。」
「それがねぇ・・・
此処に来て、ゼロ歳児保育の希望者が殺到してきたのよ。
開園したての頃には、どうなることかと模様眺めをしていた
昼間に働いているお母さんたちが
一斉に応募してきたのよ。
市役所の指導もあるから、それはそれで大歓迎なんだけれど、
ただ、此処では限界がありすぎるのよ。
なんといっても、今でさえ、狭すぎるというのに・・・」
少し遅れて荷物を運んできた幸子が、
ため息交じりに、保育園のある雑居ビルを見上げています。
「そうか・・・・もうここでは狭すぎるんだ。
ゼロ歳児たちの保育に、こんなにも人々があつまってくるなんて、
ちょっと、予定以上のものがあるもんね。
昼でも夜でもそれぞれに、やっぱり働きたいお母さんたちが、
実は、それだけ沢山いるということなんだろうね・・・・」
つられてビルを見上げていたた美千子が、
レイコの横顔を、チラリと横目で見ながら、そうつぶいています。
作品名:「レイコの青春」 7~9 作家名:落合順平