「レイコの青春」 7~9
費用はすべて、会社が負担をするので
子持ちで働くホステスさんたちのための、夜間の保育室を開設してほしい、
という内容の相談でした。
全く前例がない、「深夜専門」の新しい保育所をつくるという提案です。
この時代には時間外保育や、例外的に日曜保育などといった
保育例はありましたが、3歳児以下や乳幼児の保育で、ましてや深夜に
及ぶという保育の実績や実例は、まったくといって存在をしていません。
託児施設をそなえ夜に安心して働ける環境つくるという
コンセプトこそ、地方への進出を狙う、このキャバレーグループの巧妙な
人材確保戦略のひとつでした。
経験豊かで、多彩な接客力を持ったベテランたちを、
現地で大量に確保をしたうえで、その囲い込みを図ることが、
キャバレー側の最大の狙いでした。
雑居ビルの一室を借りあげ、そこへ保母さん付きの託児施設を開設して
一気に子供を抱える女性たちを取り込もうという計画が、
周到にすすめられました。
独身のホステス嬢たちが、
高値で引き抜かれて行くことが当たり前の時節です。
子育て中の元ホステス嬢たちの、大量確保を狙ったこの戦略は、
ものの見事に成功しました。
必要とされた30名余りの女性たちがあっというまに集結をして、
10人近い子供たちと乳幼児が、深夜の託児施設に
預けられることに決まりました。
さらに、この話を聞きつけた女性たちからも
預かってほしいと言う希望者が出てきます。
こうして「仲町通り」界隈専用の夜間託児施設として
「なでしこ」託児園が、その最初のスタートをきることになります。
同時に、認可外保育園としての申請が市役所へ提出されます。
認可外保育施設として市の承認が降りたのちに、共同の託児施設は、
名称を「なでしこ保育園」として、深夜まで子供たちを預かると
言う運営がはじまりました。
それが、昭和45年のはじめのことです。
作品名:「レイコの青春」 7~9 作家名:落合順平