~双晶麗月~ 【その3】
◆第7章 癒されない傷跡◆
「今さら謝ったってフィルは帰ってこないんだよ!!返せよ!フィルを返せ!」
ミシェルの服を掴んだ私の目からは、半年経っても癒されない心の傷の深さを表すかのような、大粒の涙が溢れて出していた。
ミシェルは目を背ける。
「フィルは……ナーストレンドで死者の体を裂くことはしません……」
「な…!何言ってんだ今さら!今頃そんなこと言ったって……!」
「嘘じゃないです……」
「じゃあなんであの時認めたんだよ!」
「僕は……認めてなどいません」
「はっ?認めただろ!忘れもしないよ!『よく知ってますね?』って…『この本読んだからですか?』って聞いただろ?」
「僕は、[ナーストレンドで狼が男の体を裂く]ということを『よく知ってますね』と言ったんです……確かにあの北欧神話の本にはそう書いてありましたから」
「それは認めたってことじゃないのかよ!」
するとミシェルは突然顔を上げ、まっすぐ私の目を見て言った。
「ナーストレンドに住まう狼は、フィルグスだけではありません」
「え…?」
「ナーストレンドで死者の体を裂くのは……先日あなたを襲ったフェンリル一族です」
フェンリル一族……私を追いかけてきたあの巨大狼……
私はそれを聞いて、掴んでいたミシェルの服から手を離し、膝の上にその手を落とした。
作品名:~双晶麗月~ 【その3】 作家名:野琴 海生奈