moonlight(中編)
だが、
バタン!!
「!」
実緒は目の前にいる親友の存在を否定するかの如く、何も言わずに扉を閉め、鍵をかけ、現実から目を背けた。そんな彼女にネオは一瞬、息を呑んだ。
「実緒! 実緒! 開けて!!」
ドンドン! とネオは懸命にドアを叩いた。
「お願いっ! 話があるの!!」
ドア越しから声を枯らして叫ぶ。
「わたしは、実緒のことを……」
胸に込み上がる想いを吐きだそうしたその時。
「……麻倉さんも私のことを傷つけに来たんでしょ……」
唇を震わせて、ネオが自分の全てを知ったことを見透かしたのか、冷ややかな言葉が返ってくる。
『ネオちゃん』ではなく、『麻倉さん』と言われたことに、槍で心臓を思い切り貫かれる感覚をネオは感じる。途轍もなく凍えた槍で。
「違うよ! わたしは、実緒が心配で……実緒を傷つけたあんなゴミ野郎とは……!」
胸が張り裂けそうな声で、自分の気持ちを訴えようとするが、
「ほっといてよ!」
拒絶とも言える、実緒の掠れた叫び声で遮られる。
「麻倉さんも私のことを嫌っているんでしょ!? 部員のみんなだってそう! 武藤くんのことは赦(ゆる)して、私に対しては他人事のように、冷たい視線を私に向けてくる! 麻倉さんも偽善者ぶって、友達のフリをして、本当は私のことをバカにしていたんでしょ!! 『こんな夢、叶うわけがない』って!!」
「そんなワケないわよ!! わたしは、あんたのことを友達やメンバーには一度も馬鹿にしたことなんて……、」
「いいや、そんなの嘘に決まっているわ!」
「嘘つく理由がどこにあるのよ! 私はいつも自慢していたわよ!! 『実緒の絵は可愛い』って! わたしの自慢だって!! 信じてよ!!」
「信じられないよ!! 部活のみんなも、麻倉さんも! みんなみんなみんな! 誰も助けてくれない! 私を孤独にするこんな場所、私を嫌うこんな場所――世界なんか……、」
現実への絶望感が涙で溢れ、そして、
「こっちから願い下げよ!!」
《後編につづく》
作品名:moonlight(中編) 作家名:永山あゆむ