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永山あゆむ
永山あゆむ
novelistID. 33809
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moonlight(前編)

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「せ、先輩!」
 先輩の無惨な姿を一年生部員、野上(のがみ)健斗(けんと)が慌てて近寄る。
「だ、大丈夫……っスか?」
「うん……なんとか」
 ネオは親指を立てて、少なくとも死人ではないことをアピールした。
 健斗に手を貸してもらい、ゆっくりと立ち上がる。中学時代は坂を登るのもへっちゃらだったけど、ブランクがあるか。体力の衰えにちょっぴり寂しさを感じた。
「ごめんねー、遅れてしまって」
 ネオは改めて新入部員――健斗と、彼の隣にいる無表情を保つもう一人の、背の高い顔が整ったイケメン――伊藤(いとう)巧(たくみ)に向かって手を合わせる。その姿に巧は黙ったまま彼女を見つめ、それに対し、健斗は、ハァ、とため息をついて、
「まったくスよ、そのおかげでみっちぃ先輩が」
「みっちぃがどうかした……って、まさか!」
「ね―――お―――」
「ひゃああああっ!?」
 今すぐにでも呪いをかけるような声音に、ネオは驚いたように思いっきり裏声を発した。背中から悪寒がぞくぞくと走る。目の前にいる健斗の顔はこわばり、冷や汗がでている。親友があのモードになる瞬間をおそらく見たのだろう、とネオは思った。
 ――間に合わなかったか……。
 ネオは覚悟を決め、後ろにいるその人のほうへと振り返る。
「あ……」
 死線を見てしまった。この目で見るのは何度目になるのだろう。四、五回目だと思う。
 そこにいたのは自分の遅刻でカンカンになっている、副部長で親友の長里(ながさと)みちる、いや、みちる様であった。
 左手に持っている飲みかけのドリンクが、メキメキ、と音を立て、茨のとげのように鋭くなった漆黒の髪の毛先は、ネオが兄のゲームプレイを見たときに出てきた、妖魔メデューサの髪のようだった。長い髪がうねうねと動き、すぐにでも部長――ネオに突き刺そうとしていた。
「ご、ごごごご、ごめん、みっちぃ! ここここ、これには、ふかい、ふっか――――い、わけが!」
作品名:moonlight(前編) 作家名:永山あゆむ