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07.キスと忠告



「ん……」
「……」

廉冶が口を離し三弥を見ると、少し目の下が赤くなっていて心なしか潤んで見えた。
うわ、何その表情……。
廉冶は思わず目をそらせた。

「ふ……。あの……斉藤?」
「……何?」
「この挨拶って……そんな頻繁にするものなの?」
「……まあ、会えば、とか?何で?嫌?」
「え、い、嫌じゃないけど……」
「けど、何?」
「その……俺はもっと軽く触れる程度で、たまにするものだとばかり思ってたから……」

少し赤くなって、そう言いながら見上げてくるせいで上目遣いになっている三弥。
いつもだったら笑いを堪える為に手で口に抑える廉冶は、今ばかりは違う意味でふと、抑えた。
……なんだ?俺……?

ていうか、そんなに長くはしたつもり、ないけどね……。
それ以上長くキスしてしまうと確かに不自然だし、それに俺がもつかどうか……て、俺、何考えてんだ……?相手は保志乃だぞ、男だぞ……?いや、ていうか保志乃相手にキスしてる時点で、俺はどうかしてるな。
でもほら、こいつって、俺の玩具だし……?だから、だよ、うん。
それに保志乃って、男女関係なくなんかそそるもんが……て、やっぱ何考えてんだよ俺。
そんな事を色々考えていると、三弥が時計を見た。

「あ、斉藤。俺、球技大会の運営委員会出ないといけないんだ」
「あー、そう言えばお前、なんかそんな係担当になってたっけ?ついてないな」
「ん……まあいいけどね。俺、どうせ球技あんま得意じゃないし。斉藤はそういうの、なんでも得意そうだよね」
「あ?あーまあ……でもメンドクサイ」
「そう言うなよ、せっかく上手いなら。俺、斉藤が活躍してるとこ、見てみたい」
「そ、うか?」

今年は本気でやろう。

「じゃあ、また明日」
「おー」

三弥は立ち上がり、屋上から出て行った。廉冶もとりあえず三弥がいなくなったし、と陸斗らの誰かがいる可能性の高い、旧音楽室にぶらりと向かう。
この教室は今は基本使われていないらしくいつも無人で、生徒会に入っている陸斗がこの部屋の鍵を管理しており、その絡みで何気に皆の集い場になっていた。
ただ無意味に集まると先生の目もあるため、一応『運営部』などと、一体何を運営するんだと激しく突っ込みたくなるようなクラブを作り、琴奈以外、皆入部済みである。普通は同好会から入らないといけないのであろうが、陸斗が何やら手をまわしたのであろう、いきなり部活に昇格していた。

……何気に陸斗って怖いよね?
そう思いながら一応合いカギを手にしつつ教室のドアに手をかけるとやはり空いていた。誰かがいるという事だろう。
果たして中に入ると、誰かどころか全員いた。

「あーレンジ来た!」
「ホントだ。レンジー、コトちゃんほったらかして浮気ー?」

有紀と亜希が入ってきた廉冶にニヤニヤと言う。廉冶がさもウザそうに答えた。

「はぁ?保志乃と居たんだよボケぇ」
「じゃあ浮気じゃん!」
「は?なんでだよ!」
「だよー?浮気だよー。ねぇ、コトちゃん」
「んー、保志乃くんなら許す」
「どういう意味でなんだ……琴菜……?」

ニッコリと答えた琴菜に、陸斗が呆れたように聞いた。琴菜が聞き返す。

「どういう意味って?」
「相手男だから浮気してもいいって事か?それとも男だから浮気の訳ないし、て事か?」
「えへへ、どっちでしょうー!」
「コト……お前なぁ……」

廉冶も呆れたように呟いた。

「なによ?最近あたしの事ほったらかしのくせにー。あまりほったらかしてると、レンジ受けの本作っちゃうんだからね」
「……ちょっと、待て」

わざと膨れたように琴奈が言った。横で陸斗が「ハァ……」とため息をついて首をふっている。
廉冶は口をひくつかせる。

「レンジウケ……?」
「ウケ?うけ……?ウケる、とか……?」

いつもは反応のいい有紀と亜希は意味が分からず首をかしげていた。
どうやら普段琴菜と接する機会の多い陸斗と廉冶しか意味は通じなかったらしい。

「うふふ!あ、あたしそろそろ友達との約束の時間ー。レンジ、ほんとなかなか来ないんだもん!ホントあたしほったらかして保志乃くんと遊んでばっかなんだもん。仕方ないから、ケーキで許してあげるー。今度新しく出来たケーキ屋さんのケーキおごる事!いい?周り女の子ばっかだけど、文句言わず店内で食べるんだからねー」
「う……分かったよ。じゃーな、コト」
「またね!コトちゃん」
「また明日ー、コトちゃん」
「あんまり遅くなるなよ」
「……うわ!相変わらずのお母さん発言!おっと……俺も彼女とのデートあるんだよね、悪いね諸君!そろそろ俺も行ってくる!」

琴菜が出ていった後で有紀がニヤリとしながら立ち上がった。すると亜希が手を振りながら言った。

「チェッ、俺彼女いたの、いつだっけなー。じゃあなー振られちまえー!」
「んだよアキのバーカ!」
作品名:Guidepost 作家名:かなみ