「レイコの青春」 1~3
一方の表通りに面したお店では、華麗なワンピースや
胸のあいたドレス姿のホステスさんが、通りかかる人たちに、甘い声で
愛嬌などををふりまいています。
路上での客引きや勧誘が禁止になる、はるか以前のことで、
こうした光景は、夜の町ではごく当り前のことでした。
芸事が消えてしまった
仲町通りでは、その景観も一遍に様変わりをしました。
ケバケバしい原色のネオンばかりが林立をはじめます。
たっぷりとお化粧を施した、若い女性たちばかりが通りに
目立つようになりました。
古い歴史を持った「旦那衆が遊んだ町」が、芸事をたしなむ花街から
女の「お色気」と「きわどいサービス」だけを提供する、
どこにでもあるただの盛り場へと、急激に舵をきりました。
和服を駆逐して、洋服を華やかに着飾った女性たちが
艶やかに歩き回りながら、男たちへ営業的な「媚びを売る」という、
「芸抜き」のあたらしい風潮が、桐生の夜の町にもやってきた時代です。
「なでしこ保育園」の、表札をしっかりと確認してから、
軽くノックして、その返事も待たず、レイコがドアを開けました。
10畳ほどの洋室には、低い仕切りがいくつも置かれています。
隙間からは、乳幼児用の小さな布団が見えました。
片目をつぶって、唇にひとさし指を立てた幸子が、笑顔で
レイコを迎えてくれました。
「おどろいたでしょう・・・
ここは、乳幼児たちのための保育園なの。」
「それにしたって、もう夜の8時過ぎじゃない。
まだ園児たちが残っているって、どういうことなの?
遅いのねぇ、お母さんたち。」
「何言ってんの、レイコ。
お母さんたちは今、お仕事に行ったばかりです。
みんな、ホステスさんや、酌婦さんの、お子さんたちばかりなのよ。」
「え?
ホステスさんや酌婦さんて、みんな、子持ちなの。」
「まさかぁ・・・
独身も多いけど子持ちで、働いている人も沢山います。
色々あるのよ、みんな。
さぁ、あがって、あがって。
せっかく来てくれたんだもの。」
招き入れられた部屋は、二間の続きになっています。
奥のほうの部屋にも、二段ベッドが置かれて居るのが見えました。
そこにも幼児たちが寝ている雰囲気があります。
窓際に置かれたソファーへ座り、窓を覗くと見下ろした先には
無数のネオンがきらめいていました。
ビルの隙間や屋根越しから見える、ネオンの原色の海に
ここが歓楽街のど真ん中であることを、あらためて再認識するレイコです。
作品名:「レイコの青春」 1~3 作家名:落合順平