「レイコの青春」 1~3
かつてこの界隈には、
小粋を誇る桐生芸者の「置き屋」さんもありました。
昭和三十年の半ばまでは、絹芸者を自称する10余名の芸妓さん達が居て、
艶やかに夜の歓楽街を支えていました。
もうひとつ、庶民相手の歓楽街が
JR桐生駅の東側を流れた、「かに川」通りに沿って有りました。
「かに川」は、渡良瀬川から引き込まれた用水のひとつで、
明治と大正のころには繊維産業の水車を回すために使われました。
その役目を終えた用水濠の川面の上に、床が張られました。
(むろん、違法ですが、)
よしずで囲われた簡易な飲食店が、次々と増えて、いつのまにか
大きな飲み屋街になってしまいました。
お客の大半が、桐生駅南側に展開している、織物工場で働く人たちでした。
近隣から働きに来る人や、商用で訪れる人たちも多かったために、
列車が到着する時間の直前や、夜は発着の合間にだけ賑わっているという
少し変わった歓楽街でした。
一方の「仲町通り」は、
機屋(はたや)の旦那衆たちの「粋な」遊び場と言われています。
歓楽街の入口に建てられた「桐生倶楽部」は、全国から商談に来る
要人たちの接待を始め、商工の会議の場として頻繁に使われていました。
そうした重要な役割を担った建物が、歓楽街の入口に建てられた
ということも、遊び人が多いという、桐生独特の気風を
如実に示したものかもしれません。
作品名:「レイコの青春」 1~3 作家名:落合順平