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雨のバス停で

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それはありきたりの出会いだった。
ある日の夕刻、私がバス停でバスを待っていると突然雨が降り出した。
空を見上げ、少し暗い気持ちになった時、突然頭上に傘が差し掛けられた。
「おやっ?」
私の視線は一旦上へ、それから傘を伝わって持っている本人へ。
見知らぬ男性だった。
一瞬どう言ったものかと考えたが、やはりこれしかないと思って言葉を発した。
「あ、どうもすみません」
相手はにこやかな笑顔で軽く言った。
「いや、こんな時はお互い様ですから」
彼の差し掛けてくれた傘は、茶色の地にベージュと黒の細いストライプ模様が部分的にあしらわれていて、ちょっとシックな大人のイメージだった。
「素敵な傘ですね」
私が言ったその一言が切欠となって、バスが来るまでのしばしの間、世間話に花が咲いた。
ひとりで待つ時間は妙に長いと感じたりするのが、彼と話しているとあっという間で、ほどなくバスが到着。
「どうもありがとうございました。お陰で助かりました。お話も楽しかったし……」
私がそこで言葉を切ると、彼は少し照れながら言った。
「いや、僕の方こそ楽しかったです。たまには雨に感謝することもあるんですね」
彼のその言葉に一瞬頬が熱くなる気がした。
本当は「また会えるといいですね」と続けたかったが、初めて会って立ち話をしただけの人にそこまで言うのはちょっと躊躇われて、思わず言葉を飲み込んでしまった。

バスのドアが開くと彼は傘をたたみ、私の後からバスに乗り込んだ。
当然のように二人で並んで座り、またおしゃべりが始まった。
バスが空いていて良かったと、少し神様に感謝した。
しかし当然ながら降りるバス停は否応無く近づいてきて、私は少し淋しい気持ちを押し隠して言った。
「あ、私、次で降りるので……」
「そうなんですか。僕はもう少し先です。このままずっと一緒に乗っていたかったなぁ」
そう言った彼は頭を掻きながらアハハと笑った。
青空にまっすぐ抜けるような爽快な笑いだった。素敵だ!
そう思った時、私は彼に魅了されていたのだろう。

その夜、一人暮らしのアパートでテレビを見ながら、お風呂に入りながら、そして夕食を摂りながらも、ふと彼のその笑顔が浮かんだ。
名前くらい聞いておけば良かったと、少しだけ後悔した。
でも、同じバス停で乗るんだから、もしかしたらまた会えるかも……。
自分にそう言い聞かせてその夜は眠りについた。

しかし、現実はそう甘くはないもの。
あれは神様の気まぐれだったのだろうと、諦めの気持ちさえ忘れかけていた2か月後のこと。
その日も突然の雨。
傘を持っていなかった私は、急遽駅前で可愛いピンクの花柄の傘を買った。
透明な地に花柄の模様が浮かび上がっているデザインで、一目惚れに近かった。
その傘を差していつものバス停に向かって歩いていると、傘越しにバス停に立っている人が見えた。
「あれっ? あの人は……」
記憶の中の、消えかかっている映像を色濃くしようと頑張った。
「やっぱりそうだ!」
2ヶ月前に傘を差しかけてくれたあの人だった。
彼は雨に濡れている。
この前の私と逆だった。
私はわざと静かに彼の背後に近寄り、後ろから傘を指し掛けた。
背の高い彼に差し掛けるのは、ちびっ子の私には少し辛かった。
腕を目いっぱい伸ばして、彼の頭にぶつからないようにしなくてはならなかったから。

少し間の抜けたタイミングで彼が上を見上げた。
私は思わずふふっと笑った。
「やあ、誰かと思ったら……」
彼は私を認めると、思わずといった感じで微笑んだ。
「私のこと、覚えていてくれたんですか?」
「もちろんです!」
彼の言葉には妙に力がこもっていた。
「この前のお返しです」
そう言って笑う私に、彼は私の目を見つめてこう言った。
「じゃあ今度は、僕からお礼をさせてください」
「お礼?」
彼は一瞬だけ視線を空へ向けて、再び私へ視線を戻すと思い切ったように言った。
「今度食事をご馳走させてください」
私は思いもかけない彼の言葉に驚いたけれど、まっすぐ彼を見て答えた。
「はい!」
そして二人同時に笑った。
緊張が解けたあとの、喜びに満ちた笑いだった。

いつの間にか雨が上がった空を見上げ、私は神様にお礼を言った。
「二度目の気まぐれをありがとう」

                                  了
作品名:雨のバス停で 作家名:ゆうか♪